重症合併症・周術期死亡が高率に生じる肝門部領域胆管がん手術
名古屋大学は5月10日、肝門部領域胆管がんの術後に生じる全ての合併症の総和と体格を考慮した術中の補正出血量の関係をRCSモデル(restricted cubic spline model)によって解析し、術後経過への影響を最小化する術中出血量の安全域を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科腫瘍外科学の川勝章司助教と江畑智希教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Surgery」オンライン速報版に掲載されている。
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肝門部領域胆管がんは手術以外に有効な治療法が乏しく、手術が唯一の根治療法だ。非常に侵襲の大きい手術が必要であるため、重症合併症・周術期死亡は依然として高率に生じているのが現状だ。術中出血量の増加が術後経過に悪影響を及ぼすことはさまざまな研究で報告されてきたが、出血がどのように術後経過に影響を与えるのかは不明であり、術後経過への影響を最小化するための出血量の安全域は明らかではない。
術中出血量の安全域を見極めるため、術後合併症との関係を分析
そこで今回の研究では、術中出血量と術後合併症との関係を分析し、肝門部領域胆管がんに対する広範囲肝切除において、術中出血量の安全域を見極めることを目指した。対象は、2010年1月~2019年12月までに、名古屋大学医学部附属病院で肝門部領域胆管がんに対して広範囲肝切除(膵頭十二指腸切除を併施した症例は除外)が行われた425人。術中出血量は、体格による影響を考慮して体重で除した補正出血量を用いた。また、術後経過中に生じた全ての合併症を調査してCCI(Comprehensive complication index)を算出し、術後経過の指標として用いた。
出血量増加と術後経過の関係性、直線的に増悪ではなくS字曲線の関係
補正出血量とCCIの関係をRCSモデルによって解析したところ、出血量の増加に伴って術後経過が直線的に増悪するのではなく、両者はS字曲線の関係にあることが明らかになった。
術後経過への影響を最小化するための目標値、補正出血量10mL/kgと示唆
補正出血量10mL/kg未満では術後経過への影響はほぼ見られず、10~20mL/kgでは出血量の増加に伴って術後経過が増悪し、20mL/kg以上では出血量の悪影響は再び減少した。この結果より、手術中の補正出血量10mL/kgが術後経過に与える影響を最小化するための目標値であることが示唆された。
次に、多変量解析を用いて他の増悪因子(年齢、性別、残肝機能、術前胆管炎、肝切除術式、門脈合併切除、肝動脈合併切除)で補正出血量とCCIのRCSモデルを調整すると、ほぼ同様の結果となった。
高侵襲手術の安全性向上に期待
今回、術中出血量の具体的な目標値が設定されたことにより、今後の高侵襲手術の安全性向上の端緒となることが期待される。今後、出血量減少に注力し、安定的に出血量の目標値を達成することで、出血量が増悪因子とはならない次世代の外科治療につなげることを目標としている、と研究グループは述べている。
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