アジア人炎症性疾患患者の大規模な遺伝子解析は行われていなかった
東北大学は5月10日、中国、韓国、米国の研究グループとの国際共同研究を通して、日本人を含む東アジア人の炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)に特徴的な80か所の感受性遺伝子を報告したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科消化器病態学分野の角田洋一講師および正宗淳教授らと、九州大学、国立国際医療研究センター、京都大学の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Genetics」電子版に掲載されている。
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炎症性腸疾患は、大腸および小腸の粘膜に慢性炎症・潰瘍が生じる原因不明の疾患で、国の指定難病となっている。その患者数は世界で600万人以上、国内でも29万人以上で、現在も増加を続けている。同疾患は、生まれ持った遺伝的要因と、食事や腸内細菌、喫煙といった環境的要因との相互作用で発症すると考えられている。
遺伝的要因として、主に欧米人(白人)を対象とした解析から、これまでに病気のなりやすさに関与する200か所以上の遺伝子領域(疾患感受性遺伝子)が明らかになっていた。しかし、人種によって遺伝的な背景が異なるため、欧米での結果がそのままアジア人では当てはまらないことがあった。一方で、アジア人では炎症性腸疾患が欧米よりも少なかったこともあり、これまで欧米に比べると小規模な遺伝子解析ばかりで、大規模な解析は行われていなかった。
中国・韓国・日本の炎症性腸疾患患者1万人以上の大規模遺伝子多型解析に成功
研究グループは今回、米国ブロード研究所(Prof. Hailiang Huang)、中国上海市第十人民医院(Prof. Zhanju Liu)、韓国蔚山大学(Prof. Kyuyoung Song)らとの国際共同研究を実施し、遺伝的によく似た背景をもつ中国人、韓国人、日本人の1万4,000人以上の患者の遺伝子解析に成功した。
人種横断的な解析で炎症性腸疾患の感受性遺伝子320か所を同定
その結果、東アジア人の炎症性腸疾患に特徴的な80か所の感受性遺伝子が確認されたほか、欧米人とも合わせた人種横断的な解析では新規に81か所の遺伝子を発見し、これまで知られていたものと合わせ、炎症性腸疾患の感受性遺伝子320か所を明らかにした。これまで欧米人で主に解析されてきた中、異なる人種の解析を加えることで、遺伝要因の解明が大きく進展した。
炎症性腸疾患の発症リスク予測法やアジア人向け治療薬開発に期待
今回の研究結果は、これまで欧米人のデータをもとに開発が進んでいた治療薬や病気の予想法などを、日本人を含む東アジア人でも活用できるようにするために重要な知見と言える。また、遺伝要因が判明することで、新しい治療薬の開発や、個人ごとの病気のなりやすさの予測、発病後の患者に合う適切な治療法の予測ができるようになる可能性がある。
「今後、炎症性腸疾患になりやすい体質や、アジア人に適切な治療法などの解明が進んでいくことが期待される」と、研究グループは述べている。
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