神経細胞で重要と予想されるRab35、生きた動物の脳における役割は未解明
群馬大学は4月27日、細胞内輸送システムの中心的制御因子であるRabファミリータンパク質の1つRab35が、マウスの脳における海馬形成とその機能に必須であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大細胞構造分野の佐藤健教授、前島郁子助教、徳島大学、東京大学、京都大学、奥羽大学、量子科学技術研究開発機構、早稲田大学らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。
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ヒトの体を構成する細胞には、タンパク質などを適切な目的地へと運ぶ輸送システムが備わっている。このシステムがタンパク質を細胞内に正しく配置することで、細胞が正常に機能することができる。近年、この細胞内輸送システムの破綻がパーキンソン病やアルツハイマー病といった神経・精神疾患の発症要因となることが明らかになりつつあり、細胞内輸送システムの中心的制御因子であるRabタンパク質ファミリーの働きに注目が集まっている。
Rabタンパク質の1つであるRab35は、これまでに、培養細胞を用いた研究から神経細胞の軸索伸長やシナプスからの神経伝達物質放出などに働くことが報告されていた。このことから、脳においてRab35が重要な役割を果たしていることが予想されていたが、実際の生きた動物の脳における役割についてはほとんど明らかになっていなかった。
ノックアウトマウスの脳内で軸索は正常に伸長、海馬の層構造に乱れ
今回、研究グループは、脳で特異的にRab35を欠損させたノックアウトマウスを作製し、脳構造を観察する組織学的解析とマウスの行動パターンから脳機能を評価する行動解析実験を行うことで、Rab35の欠損が脳に与える影響を解析した。これまでの培養細胞の研究から、Rab35を欠損すると神経細胞の軸索伸長に影響が出ると思われたが、予想に反して、このノックアウトマウスの脳内では軸索は正常に伸長していた。一方で、神経細胞が層構造を形成して配置される大脳皮質と海馬のうち、海馬の層構造が顕著に乱れていた。
警戒心や空間記憶能力が低下、海馬で細胞内輸送システム因子の発現に異常
また、行動解析実験によって脳機能を評価したところ、このマウスは警戒心が低く、高所から落ちてしまうなどといった低不安傾向を示すとともに、協調運動能力や空間記憶能力が低下していた。空間記憶と不安を伴う情動行動には海馬が関係していることから、Rab35はマウス海馬の層構造形成と機能に必須であることがわかった。さらに、海馬の網羅的なタンパク質解析を行ったところ、複数の細胞内輸送システム関連因子や細胞接着因子の量が変動していることがわかった。これらの結果から、Rab35を失った神経細胞では、細胞内輸送システムに異常が生じていることがわかった。
神経疾患やがんなどの理解につながると期待
今回の研究によって、これまで生体内での役割が明らかになっていなかったRab35が、海馬の発生と機能に必須の因子であることが明らかになった。大脳皮質の層構造形成に働くRabは複数見つかっていたが、海馬の層構造に重要なRabの発見は今回が初めてである。「近年、Rab35はパーキンソン病、アルツハイマー病などの神経疾患やがんとの関連が示唆されている。本研究は、これらの疾患の発症メカニズムの解明や細胞内輸送システムによる高次脳機能制御の理解に大きく貢献するものと期待される」と、研究グループは述べている。
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