慢性的でないウイルス感染や細菌感染症が血液がん発症を誘引するのはなぜか
熊本大学は5月2日、微生物産物への暴露と遺伝子変異によって、造血幹細胞から血液がんが発症する仕組みを明らかにしたと発表した。この研究は、同大国際先端医学研究機構(IRCMS)の指田吾郎特別招聘教授らのグループと、同大大学院生命科学研究部、東京大学、UTヘルスサンアントニオとの共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Experimental Medicine」に掲載されている。
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感染症や膠原病の罹患歴は、血液のがんである骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病の発症の危険因子であることが、古くから多くの疫学研究などによって知られている。膠原病や結核など慢性的な炎症が、がん発症の誘因とされてきたが、慢性的でないウイルス感染や細菌感染症が、どのように、数年以上経って血液がんを起こすのかは不明のままだった。
微生物産物への暴露<TET2遺伝子変異<骨髄異形成症候群を発症、マウス実験で
今回、マウスモデルを用いた解析によって、ウイルスやバクテリア由来の産物であるLPSやpIpCへ暴露した後に、健康な高齢者や血液がんの患者でもよくみられる遺伝子変異であるTET2遺伝子の欠損を誘導すると、より早く、より多くのマウスに骨髄異形成症候群が発症することが確認された。
微生物由来の産物を感知するTRIF-PLK-ELF1経路が関与
また、がんが発症する仕組みとして、微生物由来の産物を感知するToll-like receptor(TLR)と、その下流にあるTRIF-PLK-ELF1転写因子の経路が活性化することで、造血幹細胞にエピゲノム(クロマチン構造)の変化が起き、そこに、微生物暴露の前ではなく、暴露後にTET2遺伝子変異が起きることで、骨髄異形成症候群が発症することが判明した。
「この微生物由来の産物を感知するTRIF-PLK-ELF1の経路を制御することで、高齢者の血液がんの予防や治療につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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