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細菌性肺炎が難治化する分子メカニズムを解明、治療薬候補も発見-新潟大

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2023年05月09日 AM10:31

高齢社会進展に向け、効果的な肺炎治療法の確立が必要

新潟大学は5月8日、細菌性肺炎において感染者の治癒力が低下する分子メカニズムを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科微生物感染症学分野の磯野俊仁博士(日本学術振興会特別研究員)、平山悟助教、寺尾豊教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Biological Chemistry」電子版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本では、肺炎および誤嚥性肺炎が難治化し、重症患者や死者がなかなか減少しない状況だ。毎年、高齢者を中心に肺炎(誤嚥性肺炎を含む)で10万人以上が死亡している。さらに、抗生物質耐性菌の増加と高齢化の進展により、事態の増悪化が懸念されている。高齢社会が進展する将来に向け、一層効果的な肺炎治療法を確立する必要性に迫られている。

研究グループは、主な肺炎の原因菌である肺炎球菌の解析を進めている。先行研究により、肺炎球菌による肺炎が重症化するメカニズムとして、細菌の毒素等によりヒト組織が損傷を受けるだけでなく、細菌が免疫系を傷害し、破綻した自分自身の免疫で肺組織等を破壊することを報告している。今回は、肺炎が難治化するメカニズムの解明を目指し、研究を進めた。

肺炎球菌感染<免疫細胞が毒素で傷害<エラスターゼが肺組織傷害+EGFR分解

肺炎球菌に感染すると、免疫細胞が細菌毒素で傷害され、細胞内部からエラスターゼが漏れ出る。今回、この漏出したエラスターゼについて、肺組織を傷害し肺炎を重症化させるだけでなく、肺胞上皮細胞のEGF受容体()も分解することを明らかにした。EGFRは上皮成長因子(EGF)の受容体であり、損傷した上皮細胞の修復に重要な役割を果たす。肺のEGFRが分解されると、EGFがEGFRに結合できなくなり、肺組織の修復、つまり、肺炎の治癒が妨げられる。

肺炎球菌感染マウス、エラスターゼ阻害薬投与でEGFR量が健常レベルに回復

研究では、マウスを肺炎球菌に感染させ、6時間ごとにエラスターゼ阻害薬(シベレスタット)を投与。そして、感染20時間後に、肺組織中のEGFRを緑色の試薬で検出した。健常なマウスと比べ、肺炎球菌を感染させたマウスでは、EGFRが分解されるため緑色の検出が少量だった。一方、肺炎球菌の感染後にエラスターゼ阻害薬(シベレスタット)を投与したマウスでは、緑色で示されるEGFR量は健常なマウスと同程度だった。

エラスターゼ阻害薬で、組織修復につながる細胞増殖も健常レベルに

EGFが結合すると、EGFRは活性化する。活性化したEGFRは細胞を増殖させ、傷ついた部位の組織を修復する。この細胞増殖の程度を可視化するため、細胞増殖マーカー(Ki67)を赤色で染色した。その結果、健常なマウスと比較し、肺炎球菌感染マウスでは赤色のKi67はほとんど観察されなかった。一方で、肺炎球菌の感染後にエラスターゼ阻害薬(シベレスタット)を投与したマウスでは、赤色のKi67量(=細胞増殖)は健常なマウスと同程度だった。

また、肺炎球菌感染マウスでは、EGFのEGFRへの結合、およびEGFR活性化の両方が妨げられることも証明した。さらに、肺炎球菌の感染に続くエラスターゼによるEGFR分解の結果、肺胞上皮細胞株の傷口修復が遅れること、そしてエラスターゼ阻害薬(シベレスタット)の投与により、傷口修復が改善されることも示した。

急性肺損傷等の治療薬として承認済みのエラスターゼ阻害薬、肺炎改善にも期待

以上の結果から、肺炎球菌が感染すると、組織修復を担うEGFRが分解され、EGFとの結合とEGFR活性化が阻害され、損傷部位の細胞増殖が妨げられ、肺炎が難治化することが明らかになった。また、その改善には、急性肺損傷等の治療薬として承認済みのエラスターゼ阻害薬(シベレスタット)の目的外利用が効果的であることも示された。

細菌性肺炎の主な原因である肺炎球菌は、抗生物質への耐性が進行している。そこで、耐性菌への対応法や新たな治療薬の開発に加え、感染を予防する新たな消毒液の開発にも取り組んでいる。今回の研究のような、難治化あるいは重症化した細菌性肺炎への科学的根拠に基づいた治療法の提案にも取り組み続ける、と研究グループは述べている。

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