アジア3か国における過敏性腸症候群の有病率や特徴を調査・比較
早稲田大学は5月8日、東アジアの3か国(日本、中国、韓国)における過敏性腸症候群の有病率調査を行い、その結果を発表した。この研究は、同大人間科学学術院の田山淳教授、九州大学大学院人間環境学研究院の木村拓也教授、長崎大学保健センターの武岡敦之氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neurogastroenterology and Motility」に掲載されている。
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過敏性腸症候群は、脳-腸-腸内細菌相関の異常を背景とした腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘、心理的異常を伴う複合症状であり、QOLの大幅な低下を引き起こす。成人における世界の過敏性腸症候群有病率は約9%と報告されているが、居住地域により有病率に差異があることが知られていた。その理由の一つに、性別、年齢の分布の関与があるとされ、これまでの多くの研究では「女性」や「若年」において、過敏性腸症候群のリスクが高いことが示されている。
アジアは多環境・多民族・多文化のため、単一の存在として評価することはできない。したがって、アジア内で類似した特徴を持つ別々の小地域での過敏性腸症候群の調査が必要と考えられた。そのため同研究では、日本、韓国、中国の都市を対象に、性・年齢について割当法を用いたサンプリングにより調整した上で、過敏性腸症候群の有病率をインターネットで調査し、3か国間の過敏性腸症候群の特徴を比較することを目的とした。
有病率は全体13%、日本15%、中国6%、韓国16%
その結果、過敏性腸症候群の有病率は、全体13%、日本15%、中国6%、韓国16%であることが明らかになった。さらに、全体有病率は世界的な有病率よりもわずかに高く、日本や韓国よりも、中国の有病率が低いということも判明した。
「若年女性」で高いというエビデンスとは異なり「壮年男性」で有病率が高い
また、過敏性腸症候群サブタイプの交替型(下痢と便秘を繰り返す型)がいずれの国でも割合が高く、2番目に多いサブタイプは、日本では下痢型、中国では便秘型、韓国では分類不能型(下痢型、便秘型、交替型のどれにも属さない型)だった。
性差について、過敏性腸症候群の有病率と過敏性腸症候群-下痢型の有病率は、先行研究とは異なり「男性」で高いことが示された。さらに年齢に関しても、先行研究と異なり「40歳代」が最も高かったとしている。
今後、食事・運動・心理の変化と腸内細菌の関連についても調べることが必要
東アジアという文化圏において、多様な食文化および行動様式の差異が有病率の差異を生じさせている可能性がある。しかし、東アジアの過敏性腸症候群有病率が、世界の他のエリアでこれまで多く示されてきた「若年・女性」で高いというエビデンスとは異なり、「壮年・男性」で有病率が高いという結果になっている点は注目に値する。同エビデンスは、今後の疫学研究の対象選定等に影響を及ぼす可能性や、日常的な過敏性腸症候群診療などの参考になる可能性がある。
一方、過敏性腸症候群の有病率の地域的不均質性の要因を解明するためには、さらなる研究が必要だ。特に、ストレス・病気・行動・食事等の要因に加え、遺伝子変異・感染・腸内フローラ・免疫活性化等の生物学的要因が有病率に与える影響についての研究が求められる。
これまで過敏性腸症候群の主な原因として「ストレス」の関与が示唆されていたが、近年、各国の消化器学会等は過敏性腸症候群の主因が「腸内フローラの変異」であると発表している。「今回の研究は、腸内細菌と有病率の関係を論じるものではなかったが、消化器症状、食事、運動、心理の変化と腸内細菌の変化が関与していることは、すでに知られている。これらと腸内細菌の関連を紐解くことが過敏性腸症候群の症状マネジメントに寄与するはずだ」と、研究グループは述べている。
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