地中海沿岸地域外での「地中海食」の影響を検討、エコチル調査
熊本大学は4月28日、エコチル調査の4万6,532組のデータから妊娠中の地中海食スコアと出生児の4歳時点での1型アレルギー(喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎)罹患の関係について解析し、妊婦用に調整された地中海食指標で高得点群の母親からの出生児では、4歳時点での喘息罹患率が低いことが明らかになったと発表した。この研究は熊本大学大学院生命科学研究部附属エコチル調査南九州・沖縄ユニットセンターの中野魁太氏(研究当時:大学院医学教育部修士課程2年)、倉岡将平助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nutrients」に掲載されている。
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地中海食はスペインやイタリア、ギリシャといった地中海沿岸地域における伝統的な食事様式で、1)豆類、未精製の穀物(全粒粉など)、野菜、果物の摂取量が多い、2)肉および肉製品の消費量が少ない(魚をよく食べる)、3)牛乳および乳製品を適度に摂取、4)オリーブオイルをよく使う、5)適度にワインを飲むといった特徴がある。地中海沿岸地域の集団において心血管系の疾患発症リスクが低いという報告から、地中海食は健康食のひとつとして注目されている。近年、地中海食による健康効果を示す多くの報告がある中、妊娠中の地中海食摂取が出生した児に影響を与えることが分かってきた。しかし、大規模な解析は行われておらず、明確な関連性はまだ明らかではなかった。また、地中海沿岸地域外での地中海食研究はほとんど検討されていない。
4万6,532組の母子が対象、妊娠中の食事内容から「地中海食らしさ」を算出
今回の研究では、エコチル調査のデータから、妊娠中の食事内容に関する質問票調査の結果、出生児の4歳時点での1型アレルギー罹患を抽出し、最終的に4万6,532組の母子を対象とした。1型アレルギーはIgE抗体に関連したもので、今回は、喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎の5疾患について検討した。
妊娠中の食事内容から「地中海食らしさ(=地中海食スコア)」を算出し、高得点群と低得点群におけるアレルギー罹患率の関係性について解析を行った。これまでにも多くの地中海食に関する研究が実施されているなかで、地中海食スコアを算出するための指標は複数報告されている。今回の研究では、これまでの地中海食研究において使用頻度の高い3つ指標:MDS、rMED、PMDSを用いてスコア(得点)を算出し、それぞれ高得点群と低得点群に群分けを行い解析した。
喘息罹患率、「妊婦用の地中海食指標」の高得点群で7.9%、低得点群で8.8%
MDSおよびrMEDでは高得点群と低得点群の間の全ての1型アレルギー(喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎)において罹患率に明らかな差は認められなかった。一方、妊婦用の地中海食指標であるPMDSを用いた解析では、高得点群の妊婦からの出生児では喘息罹患率が低いことが明らかとなった(高得点群:7.9%、低得点群:8.8%、オッズ比:0.896)。喘息以外のアレルギー疾患では明らかな差は認められなかった。
地中海食による健康効果の評価、適切な指標・基準値の選択が重要な可能性
今回研究グループは、妊娠中の地中海食への遵守(継続的に地中海食らしい食生活を送ること)が出生児の喘息罹患を下げるという報告を、地中海沿岸以外の地域で初めて再現した。また、研究では、地中海食スコアを算出する際に、地中海沿岸地域での研究に基づいて得られた値を基準値として用いたが、この基準値をエコチル調査で実施した食事調査(妊娠中の食事内容に関する質問票調査)から得られた値に変更したところ、結果が大きく変わることがわかった。このことから、地中海沿岸以外の地域で地中海食スコアを算出する場合でも、地中海沿岸地域の基準値を用いるべきであるという可能性が示された。
地中海食の摂取と喘息発症のメカニズム解明は今後の課題
今回の結果の解釈において、留意すべき点はいくつかある。まず、質問票を用いた食事調査は、妊娠中の限られた時期(過去1か月程度)だけを反映しており、継続的な地中海食らしい食生活の評価としては不十分である可能性がある。また、地中海食がどのようなメカニズムで喘息の発症に関与しているかは明らかではない点も挙げられる。加えて、食文化の異なる地域での地中海食スコアの算出が適切かどうかに関しても今後さらなる検討が必要である。研究をきっかけに地中海食の研究が地中海沿岸以外の地域へと進展することが期待される。
「妊娠中の地中海食が子どもの健康にどのように影響するのか引き続き調査を継続していく。また、こども自身の食生活についても検討することで、さらなる関連性についても明らかとなることが期待される。地中海食の摂取がどのようなメカニズムで影響を与えるのかについて、摂取食品の1つひとつを詳細に解析することで、健康的な食生活に関する適切な指標の提言につながると考えられる」と、研究グループは述べている。
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・熊本大学 プレスリリース