てんかんの有病率・発症率、日本全国規模の疫学調査研究報告はほとんどなかった
広島大学は5月1日、全国の健康保険組合加入者986万4,278人のレセプトデータ8年分を解析し、日本におけるてんかんの有病率、発症率を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科の栗栖あけみ特任学術研究員、杉山文講師、田中純子特任教授、広島大学病院てんかんセンター長の飯田幸治教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」に掲載されている。
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てんかんは、乳幼児から高齢者までどの年齢層でも発症する可能性があり、患者数の多い神経疾患の1つだ。先進国での有病率は、一般人口1,000人あたり4~8人、発症率は一般人口10万人あたり1年間で約45~49人と報告されている。患者の規模(有病率と発症率)を把握することは保健医療戦略を考える上で重要だが、日本におけるてんかんの有病率、発症率に関する全国規模の疫学調査研究報告はこれまでほとんどない。
全国の健保組合に8年間在籍の74歳以下986万4,278人を対象に解析
そこで今回の研究では、大規模レセプトデータ解析により、年齢・性別・暦年ごとのてんかんの有病率ならびに発症率を明らかにすることを目的とした。データ提供元である株式会社JMDCが契約する全国の健康保険組合に、2012年1月~2019年12月の8年間に在籍記録を有するすべての加入者(被扶養者を含む)986万4,278人を解析対象母集団とした。健康保険組合加入者であることから、対象者の年齢は74歳以下であり、40~50代が全体の約3割を占めている。同研究グループにおいて、レセプトの傷病名情報、医薬品情報、診療行為情報、てんかん指導料などの情報から、てんかん患者を判定するためのアルゴリズムを開発し、解析。その結果抽出されたてんかん患者数は7万7,312人だった(8年間、重複を除く人数)。抽出したてんかん患者情報にもとづき、有病率、発症率を算出した。
てんかん有病率は人口1,000人あたり6.0人、先進国と同水準
てんかん有病率は、人口1,000人あたり6.0人(男性6.1人、女性5.8人、2019年)。これまでに報告されている、先進国での有病率(4~8人/人口1,000人)と同水準だった。てんかん有病率の2012~2019年の経年変化は、人口1,000人あたり5.4~6.0人(男性5.4~6.1人、女性5.4~5.8人)と微増傾向だった。性差は、ほとんど見られなかった。年代別では、70~74歳のてんかん有病率が他の年代と比較して最も高い値を示し(9.2人/1,000人、2019年)、次いで10歳代が高い値を示した(15~19歳:8.6人/1,000人、10~14歳:7.9人/1,000人、2019年)。
てんかん発症率は10万人年あたり72.1人、先進国と比べ約1.5倍高値
抽出したてんかん患者7万7,312人より、2012年1月以前にてんかんを発症していた患者4万7,387人(レセプトデータの診療開始日より判定)と健康保険組合加入後1年以内にてんかんを発症していた患者5,925人(保険変更に伴う診断の可能性が否定できないことから除外)の計5万4,312人を除外し、新規てんかん患者2万4,000人を分子に、てんかん症例と診断されていない健康保険組合加入者の2012~2019年の総観察人年(33,299,234人年)を分母にして発症率を算出した。
その結果、てんかん発症率は、10万人年あたり72.1人(95%CI:71.2-73.0/10万人年)、男性:70.7/10万人年(69.5-72.0/10万人年)女性:73.7/10万人年(72.3-75.1/10万人年)となり、女性の方がやや高率だった。これまで報告されている先進国におけるてんかん発症率(45-49/10万人年)3、4と比べ、約1.5倍高値だった。
年代別では0歳発症率が最高、70~74歳が続く
年代別では0歳のてんかん発症率が最も高く199.8/10万人年(182.1-218.7/10万人年)、次いで70~74歳の発症率が179.4/10万人年(164.9-194.7/10万人年)がその他の年代よりも著しく高く、U字曲線となった。
日本のてんかん発症率を算出した初めての報告
日本のてんかん発症率について算出した報告はこれまでになく、初めての報告となる。患者の規模(有病率と発症率)を把握することは保健医療戦略を考える上で重要だ。同研究では、全国地域を網羅する大規模一般集団を対象とした解析結果に基づく、てんかんの疫学的実態を提示した。患者への政策に生かされることを期待し、研究を続け発信をしたいと、研究グループは述べている。
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・広島大学 プレスリリース