CAR-T細胞製造失敗を予見し回避する手段の確立が求められていた
京都大学は4月27日、CAR-T細胞製造失敗の発生状況とリスク因子を調査した結果を発表した。この研究は、同大医学部附属病院検査部・細胞療法センターの城友泰助教、新井康之同助教(院内講師・同副センター長)、兵庫医科大学の吉原哲教授、東京大学医科学研究所の長村登紀子教授、慶応義塾大学の田野﨑隆二教授らの研究グループが、日本輸血・細胞治療学会のタスクフォース研究として行ったもの。研究成果は、「British Journal of Haematology」にオンライン掲載されている。
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キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は日本でも2019年に承認されて以来、急性リンパ芽球性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫に対して実施症例数が急激に増加している。CAR-T細胞療法は、数多くのステップを経て完遂する。CAR-T細胞は、患者からアフェレーシスでT細胞(自家T細胞)を採取し、それを原料にして製薬企業の細胞調製施設にて製造されるが、この製造工程において、一部の症例では細胞増殖の不良などが原因で、製品としての出荷基準を満たさない「製造失敗」が認められる。
これまでは、実臨床におけるCAR-T細胞製造失敗の実態は十分に把握されておらず、また製造失敗のリスク要因も不明だった。製造失敗が発生すると、患者に再度アフェレーシスでT細胞を採取して再製造のスケジュールを立てる必要があり、治療が大きく遅延することや、またその間に病勢の進行のためCAR-T細胞療法を実施することができなくなるなど、患者の治療計画や予後に重大な影響を与える。さらに、医療機関側では病床や人員の重複した確保、製薬企業では再製造枠の追加確保が必要で医療資源に負担が発生する。そのため、製造失敗を予見し回避する手段の確立が急務だ。
7.4%が製造失敗、血小板数少・T細胞CD4/8比低・化学療法反復でリスク増
研究グループは今回、日本輸血・細胞治療学会に設けられた「CAR-T療法タスクフォース」での研究課題として、日本全国のCAR-T細胞療法実施施設から、保険診療としてCAR-T細胞製剤キムリア(R)(一般名:チサゲンレクルユーセル)療法を目的にアフェレーシスによるT細胞採取を行い、製薬企業でCAR-T細胞製造を試みられた、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)症例について臨床情報を収集し、製造失敗の頻度や製造失敗に関わる要因について調べた。
408例が解析対象となり、このうち30例(7.4%)に製造失敗が認められた。この30例と製造成功例の臨床情報を比較したところ、アフェレーシス時点で「末梢血中の血小板数が少ない」「T細胞のCD4陽性細胞とCD8陽性細胞の比率(CD4/CD8比)が低い」「抗腫瘍薬剤のベンダムスチンを3コース以上反復し使用し、T細胞採取前の休薬期間が短い」ことが、製造失敗のリスクを上昇させると判明。また、製造失敗を生じた30例では、病勢のため再製造が試みられたのは18例のみで、そのうち6例では再度製造に失敗し、その結果、CAR-T細胞投与ができた症例は12例(40%)に留まった。
患者の造血能や免疫機能が損なわれる前の早い段階でT細胞採取を行うことが重要
通常、CAR-T細胞療法の対象となる患者は、化学療法を反復して受けていることから、造血能(血小板などの血液細胞を造る力)や免疫細胞の機能が抑制されている。T細胞採取時に血小板減少やT細胞のCD4/CD8比低下がある患者では、それまでの治療の影響を強く残り、T細胞がCAR-T細胞製造工程で増殖しにくい性質を持つ可能性がある。
このことから、患者の造血能や免疫機能が損なわれる前の早い段階でT細胞採取を行う重要性が示唆された。
ベンダムスチンはB細胞リンパ腫に大切な治療薬で、CAR-T細胞療法の対象患者でも多く使用されている。そのため、ベンダムスチンを工夫して使用することの重要性が明らかになった。同検討では、休薬期間が3か月未満でかつ3コース以上のベンダムスチン使用がある症例では、製造失敗リスクが高い一方、休薬期間が2年以上あるいは2コース以下の使用では製造失敗リスクにつながらないことが判明した。このことから、CAR-T細胞療法を検討する際は、ベンダムスチン使用が少ない段階でT細胞採取を実施し、T細胞採取後にベンダムスチン使用を行うことで、治療を最適化できる可能性があるという。
リスク因子回避不可の場合は臨床試験参加の検討など、リスクに応じた治療戦略が必要
また、リスク因子を避けることができない患者では、T細胞採取後にCAR-T細胞製造結果が判明するまでの期間(通常2~3週間)に、製造失敗に備えて再アフェレーシスの計画を念頭に治療を行うことや、CAR-T細胞療法以外の治療法や臨床試験参加を検討するなど、リスクに応じた治療戦略が有用な可能性があるとしている。
CAR-T細胞療法の運用最適化に期待
今回の研究成果により、患者ごとにアフェレーシスの時期やアフェレーシス前の化学療法内容を工夫することで、CAR-T細胞製造失敗のリスクを低減できる可能性が示唆された。
「製造失敗リスクに応じて、次の治療戦略を立てるための有用な情報になり、CAR-T細胞療法の運用最適化につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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