絵を用いた簡単なテストで認知症リスクをスクリーニング可能
簡単なテストの結果を基にかすかな認知障害を検出するSOMI(Stages of Objective Memory Impairment、客観的記憶障害のステージ)システムにより、記憶障害や思考障害の兆候が現れる何年も前に、高齢者の認知症リスクをスクリーニングできるという研究結果が報告された。米アルベルト・アインシュタイン医学校神経学部のEllen Grober氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に4月19日掲載された。
画像提供HealthDay
SOMIでは、認知症の症状がない患者に絵を見せた後に、必要であればヒントをもらいながら見たものを思い出す、自由および手掛かりによる選択的想起検査テスト(Free and Cued Selective Reminding Test;FCSRT)の結果に基づき、患者をステージ0(現時点で記憶に問題がなく将来的な認知症リスクも低い)からステージ4(記憶の信頼性が最も低く、将来の認知症リスクが最も高い)までの5段階に分類する。
今回の研究では、認知機能が正常な969人(平均年齢69.35±9.75歳、女性59.6%)にFCSRTを行い、その結果に基づきSOMIステージに分類した〔ステージ0:452人(46.6%)、ステージ1:342人(35.3%)、ステージ2:128人(13.2%)、ステージ3/4:47人(4.9%)〕。このうちの555人では、試験開始から2年以内に脳脊髄液の採取と脳の構造的MRI画像が撮影され、うち144人にはアミロイドの蓄積が確認されていた。対象者は最長10年間追跡された(平均追跡期間は6.36±3.17年)。
性別、年齢、遺伝的要因など、認知症リスクに関与する多くの因子を考慮して解析した結果、認知症を発症するリスクはSOMIステージ0の人に比べて、ステージ2の人で約2倍(ハザード比2.07、95%信頼区間1.32〜3.01)、ステージ3/4の人で約3倍(同3.11、1.94〜4.97)であることが明らかになった。研究グループは、ステージ3/4の人の72%、ステージ2の人の57%、ステージ1の人の35%、ステージ0の人の21%が、10年後に認知障害に悩まされることになると見積もっている。
こうした結果を受けてGrober氏は、「SOMIシステムには、現時点では認知機能が正常ではあるが、臨床的に認知症へ進行するリスクが高い人を特定する力があると自信を持って言える」と述べている。
Grober氏は、この種の検査はいくつかの点で有用であると説明する。その一つとして、認知症リスクが早期に発見されたのなら、「そのリスクを軽減するためにできることが、過去10年間の脳の健康的な老化に関する研究によって明らかにされている」と述べる。また、「長期的な認知症リスクを正確に予測するツールは、認知機能低下の進行を遅らせたり予防したりするための新しい治療法の開発を目標に現在行われている研究活動の“補助”となる可能性もある」と付け加えている。
本研究の共同出資者の一人であり、アルツハイマー病協会のグローバルサイエンスイニシアチブディレクターを務めているChristopher Weber氏は、SOMIが他の検査と異なる点として、「アルツハイマー病のごく初期にしばしば見られるかすかな記憶障害を検出できる点」であると指摘。「このような早期発見は、個人と医療提供者が症状を管理し、今後の計画を立て、薬物による介入やライフスタイルへの介入により認知機能低下の進行を遅らせるのに役立つ」と強調している。
ただしWeber氏は、本研究が主に白人と高学歴の人を対象にしたものであり、より多様な患者集団に一般化できる結果ではない点にも注意を促している。同氏はまた、「認知症の発症を確実に予測できる単一の検査は存在しない。正確な診断を得るには、記憶力の検査だけでなく、神経学的検査や画像検査を含む包括的な評価が必要だ」と述べている。
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