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CKDでの心血管疾患発症、日本は米国より低く心収縮力低下と左心肥大が重要-名大ほか

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2023年05月01日 AM11:13

日米の比較研究はあったが個別患者データを用いた背景因子の検証はなかった

名古屋大学は4月28日、日本の慢性腎臓病患者は心不全や脳卒中などの心血管疾患の発症率がアメリカの慢性腎臓患者よりも低いこと、それは主に心臓のポンプ機能を表す指標である収縮力と、心臓の広がりやすさや弾力性に寄与する左室肥大の違いが背景因子として重要であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院先端医療開発部データセンターの今泉貴広特任助教、同大学大学院医学系研究科腎臓内科学の丸山彰一教授、兵庫県立西宮病院腎臓内科の藤井直彦医師、名古屋市立大学腎臓内科の濱野高行教授、東海大学医学部医学科内科学系腎内分泌代謝内科学の深川雅史教授ら、米国・ペンシルベニア大学臨床疫学生物統計学部門Harold I. Feldman教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International 誌」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

心血管疾患は、慢性腎臓病患者に合併しやすい重大な疾患だ。世界各国においてそれぞれに実施された慢性腎臓病患者における臨床研究によると、東アジア諸国では米国や欧州諸国よりも心血管疾患のかかりやすさが低いことが示唆されている。しかし、各国で独立して実施された研究であるがゆえに、腎機能、尿タンパク、心臓病の既往歴、糖尿病患者の割合などの背景因子はそれぞれの研究同士で異なっていた。過去に日米の比較について論じられた研究があったが、個別の患者データを用いた研究ではなく、こうした背景の違いがどの程度結果に影響するかが明らかではなかった。

左心室の収縮力と左室肥大に着目して解析

今回、研究グループは、個別の患者データを匿名化したものを合わせて解析することで、これまで未解決だった疑問に対して答えを見出そうと試みた。昨今、心血管疾患の中でも、腎機能の低下に伴ってうっ血性心不全を発症する患者が増加している。これまでの研究から、心臓の構造と機能は、将来の転帰を予測するための重要な指標であることは知られていた。そこで、研究グループは、こうした心臓の構造と機能の中でも、左心室の収縮力と左室肥大に着目。その指標を媒介して日米間の心血管疾患の違いを、どの程度説明するのかを調べることにした。

CKD-JAC研究の対象者2,966人中1,097人が、CRIC研究の対象者3,939人中3,125人が心臓超音波検査を実施しており、合計4,222人を解析の対象とした。推算糸球体濾過率の平均値(標準偏差)はそれぞれ28.7(12.6)mL/min/1.73m2, 42.9(16.9)mL/min/1.73m2であり、尿中アルブミン・クレアチニン比の中央値[四分位範囲]はそれぞれ520[135–1338]mg/gCr, 46[8–424]mg/gCrだった。最大5年間の追跡期間を設定し、、死亡、末期腎不全に着目して解析を行った。

日本に比べ米国は発症リスク3~5倍、心収縮力10%以上低、左心肥大2倍

結果、米国では日本と比べて、年齢、性別、腎機能などの背景を揃えた集団において心血管病の発症のリスクが3~5倍高く、心臓の収縮力が平均で10%以上低く、左室肥大を持つ患者が2倍近くあることが明らかとなった。

心収縮力低下と左室肥大が重要なリスク因子、左心肥大には肥満と炎症が関連

心エコー所見の日米比較結果により、CRIC研究対象者のほうが左房径、左室心筋重量係数が大きく、左室駆出率は低いことがわかった。これは、心臓の壁の厚みが厚く、広がりにくさを反映して左心室の手前にある左心房に血液がうっ滞して広がっていることを示唆している。さらに、収縮力の低下から、ポンプ機能の低下も見られることがわかった。そして、CRIC対象者の特徴的な形態変化として、心臓の中隔が不釣り合いに厚くなっていることがわかった。これは肥大型心筋症でよく見られる所見で、病的な所見であることが示唆される。左室肥大は、さらにBMIときれいな相関関係を持っており、肥満度が増すと左室心筋も肥大していくことを示している。肥満度が増すことで、炎症を示す指標CRPの上昇も見られることから、肥満を抑制することで左室肥大を防ぐ可能性を示唆していると考えられた。

、心臓の収縮力低下と左室肥大を合わせて70%に上る

今回の研究では、日米で心血管疾患と死亡のリスクに大きな開きがあることが示された。個別の患者情報まで用いることで、背景の違いを均して比較することを可能にし、その結果、予想以上に日米の違いが明確になった。そして、その違いを左室肥大、収縮力低下、その両者でどの程度説明できるか、ということを媒介効果分析によって数値化した結果を得ることができた。特に、うっ血性心不全においては心臓の収縮力低下と左室肥大を合わせて70%にも上ることが明らかとなり、心臓超音波所見の重要性が浮き彫りとなった。

慢性腎臓病の肥満抑制、定期的な心エコーによる早期対処の重要性が明らかに

この研究により、慢性腎臓病患者に対して、肥満を抑制すること、そして定期的な心エコーの実施で早期に危険信号を察知して対処することの重要性が明らかとなり、腎臓内科医の慢性腎臓病患者に対するケアの見直しを迫るインパクトを持つ研究となった。これから「心不全パンデミック」を迎える日本にとって、慢性腎臓病患者の心不全の発症を少しでも減らすために心血管疾患の危険性を早期にアセスメントすることが重要であることがわかった。また、肥満を伴う慢性腎臓病の割合の高い米国においても、肥満への対策を講じることで同様に心不全をはじめとした心血管疾患の抑制できる可能性があることがわかったとしている。このように、昨今、心不全に対する新たな治療が次々に生み出され、治療戦略もシフトしてきていることから、今後も継続的に国際比較研究を実施することが重要と考える、と研究グループは述べている。

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