神経症状発症前のハイリスク者を前駆症状から抽出する方法を検討
名古屋大学は4月27日、難治神経変性疾患のひとつでパーキンソン病(PD)とレビー小体型認知症(DLB)を合わせた名称であるレビー小体病を対象とした臨床研究において、質問紙調査と画像検査を組み合わせることにより、健康診断の受診者において将来のレビー小体病発症リスクを検出する方法を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央教授、服部誠客員研究員、国立長寿医療研究センターらの研究グループによるもの。研究成果は、「npj Parkinson’s Diesease」にオンライン掲載されている。
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認知症を含む神経変性疾患では、臨床症状の発症に10〜20年以上先行して異常タンパク質の蓄積が生じていることが明らかになってきており、発症前に病態を抑制することが重要であると考えられている。PDとDLBを含む疾患概念であるレビー小体病は、αシヌクレインの神経細胞内蓄積を病理学的特徴とする神経変性疾患である。PDは動作緩慢などの運動障害と認知機能障害を呈し、国内患者数は20万人程度と推定されている。一方DLBは国内患者数60〜90万人程度と推定され、アルツハイマー型認知症に次いで頻度の高い認知症であり、幻視などの認知機能障害とパーキンソン病に似た症状を呈する。PDに対してはL-dopaをはじめとするドーパミンに関連する薬剤やゾニサミドなどの非ドーパ薬、またDLBに対してはドネペジルとゾニサミドが治療薬として承認され臨床で使用されているが、これらの治療薬は症状を改善するのみで、病気の根本原因を抑えるものではく、そのため長期予後の面で限界がある。とくにPDでは発症後数年は内服治療により運動症状が比較的良好にコントロールされるが、その後はウェアリングオフやジスキネジアなどの運動障害が高度となることが知られている。その主な要因として、神経症状の発症時にすでに神経変性が進行していることが挙げられる。例えば、PD患者では発症時に既に50%以上のドーパミンの神経細胞が脱落(死滅)していることが知られており、神経症状を発症する間の期間に神経変性を抑制する根本的治療法(疾患修飾療法)を開始することが必要と考えられている。
近年、レビー小体病では神経症状の発症10~20年前から便秘やレム睡眠行動異常症(RBD)、嗅覚障害などのprodromal(前駆)症状を呈することが注目されている。また、ドーパミントランスポーターシンチグラフィー(DaT-SPECT)やMIBG心筋シンチグラフィーなどの画像検査による早期診断も可能であることが明らかとなりつつある。しかし、一般人口におけるprodromal症状の保有率は十分に明らかとなっておらず、神経症状を発症する前のハイリスク者を抽出する方法は不明だった。
質問紙で抽出したハイリスク者とローリスク者に対し、精密検査を実施
そこで、研究グループは、久美愛厚生病院(岐阜県高山市)、だいどうクリニック(愛知県名古屋市)の健診センターと連携し、これらの施設の健診受診者(年間約1万人)を対象としたレビー小体病のprodromal症状に関する調査とハイリスク者のレジストリ構築を目的に研究を開始した。これまでの研究結果で、50歳以上の健診受診者の約8%が、自律神経障害、嗅覚低下、RBDのうち2つ以上のprodromal症状を有するハイリスク者に該当することを明らかにしていた。今回、質問紙によって抽出したハイリスク者69名と、prodromal症状を有しないローリスク者32名の両群に対し、レビー小体病に関する精密検査を実施することで、ハイリスク者の臨床的特徴を明らかにする目的で研究を実施した。
2つ以上のprodromal症状を有する場合に軽度の認知機能低下と嗅覚低下
今回の研究で実施した精密検査の結果、2つ以上のprodromal症状を有するハイリスク者では、ローリスク者と比較して軽度の認知機能低下と嗅覚低下がみられ、DaTSPECTの異常率が約4倍高く、脳内のドーパミン神経変性が進行していることが明らかとなった。また、DaTSPECTの異常はパーキンソン病の運動障害(MDS-UPDRS part3)と、MIBG心筋シンチグラフィーの異常は嗅覚低下(OSIT-J)と関連が深いことが示された。さらに、DaT-SPECTとMIBGの両方で異常を示すハイリスク者は、他の群と比較して約10歳高齢で、運動障害、認知機能低下、嗅覚低下の程度も強いことから、体内の神経変性が広汎に進行しており、PDやDLB発症に近いより高リスク者と考えられた。
2つの画像検査の組み合わせでより正確に抽出可能、健康診断制度との連携を検討
パーキンソン病の臨床像は多彩であり、特に病初期では運動障害が主体で非運動症状があまり目立たない患者や、逆に非運動症状が主体で運動障害があまり目立たない患者が存在する。Prodromal期ではPD、DLB患者と比べて神経変性が軽度であることから、DaT-SPECTとMIBG心筋シンチグラフィーのどちらか一方でしか異常を示さない例も多く、2つの画像検査を組み合わせることでより正確にレビー小体病予備群を抽出できることが判明した。
自覚症状のない者は病院を受診しないため、神経症状のないハイリスク者を通常診療で同定することは困難であるが、健康診断制度と連携したレジストリを活用し、DaT-SPECTやMIBGなどの詳細な画像検査を実施することで、神経変性疾患・認知症の発症リスク評価が可能であることが示された。
見出したprodromal期の患者を対象に、ゾニサミドの臨床試験を実施
研究の結果、2つ以上のprodromal症状を有するレビー小体病のハイリスク者では、軽度の認知機能低下と嗅覚低下を認め、DaT-SPECTでは脳内のドーパミン神経の変性が進行していることが明らかとなった。現在研究グループは、今回の研究で見出したprodromal期のレビー小体病患者を対象に「レビー小体病発症前のハイリスク者に対するゾニサミドの有効性・安全性に関する研究」と題する臨床試験を実施している。「試験薬として選定したゾニサミドは、PDとDLBに対する既承認薬として日常診療で広く使用されており、ラット、マウスや細胞を用いた基礎研究で神経保護効果を示すことが報告されていることから、ゾニサミドをレビー小体病予備群の方に超早期に投与することで疾患の発症を遅らせる効果が期待される」と、研究グループは述べている。
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