日本人の食の栄養学的質と、「価値観・知識・技術・行動」との関連を調査
東京大学は4月26日、日本人成人2,231人を対象に詳細な質問票調査を実施し、食事の「栄養学的な質」と、食に関する価値観・知識・技術・行動との関連を調べた結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科社会予防疫学分野の村上健太郎助教、篠崎奈々客員研究員、佐々木敏教授らの研究グループ(所属と職位は研究当時)によるもの。研究成果は、「British Journal of Nutrition」に掲載されている。
不適切な食事摂取は、1年あたり1100万人の死亡(総数の22%)の原因であると推定されている。このため、食の栄養学的質に関連する要因の解明は、世界的な最優先課題の一つであると考えられる。このような流れの中で、食に関する価値観、すなわち、個人が食品を購入・摂取するかを決定する際に考慮する要因に注目が集まってきている。また、最近になって登場した概念に、「フードリテラシー」がある。フードリテラシーとは「食を計画、管理、選択、準備、摂取するために必要な、相互に関連した知識、スキル、行動の集まり」を意味する。この定義に基づいて、研究ではフードリテラシーを、栄養に関する知識、料理技術、食全般に関わる技能(食事の計画と準備、買い物、予算の立て方、食品ラベルの読み方に関わる技能)、食行動で構成されるものと考えた。
食の栄養学的質と食に関する価値観やフードリテラシーとの関連に関する研究は、欧米を中心に世界各地で行なわれてきたが、食の評価が野菜や果物の摂取量のみであったり、食に関する知識のみを検討していたりなど、いずれも限定的な検討にとどまっており、その全貌は明らかになっていなかった。
19~80歳の2,231人のデータを解析
研究グループは、一般日本人成人を対象とした質問票調査を実施し、食の栄養学的質と食に関する価値観・知識・技術・行動との関連を調べた。具体的には、2018年10月から12月にかけて実施した全国規模の質問票調査で得られたデータを使用した。調査参加者は、全国規模の詳細な食事調査に参加した成人で、一般家庭で生活する健康な日本人だった。調査地域は、地理的な多様性と調査の実施可能性に基づいて、日本の総人口の85%以上を占める32都道府県とした。475人の管理栄養士が参加者の募集とデータ収集を担った。全国規模の食事調査の成人参加者2,983人のうち、2,248人が研究に参加(参加率75%)。データに欠損がある者(5人)、19~80歳の年齢の範囲外の者(12人)を除外したのち、19~80歳の2,231人(男性1,068人、女性1,163人)のデータを解析した。
有用性が確立されている質問票を用いて評価
食の栄養学的質の評価には、健康食インデックス(Healthy Eating Index)を用いた。これは、現時点での科学的知見を網羅的にまとめたうえで定められた「アメリカ人のための食事ガイドライン」(Dietary Guidelines for Americans)の遵守の程度を測る指標で、日本人における有用性も検証済の評価法である。健康食インデックスに含まれる因子は、「多く食べるほどスコアが高くなる項目」として果物・野菜など6個、「少なめに食べるほどスコアが高くなる項目」として精製穀物、ナトリウムなど4個が含まれる。100点満点でスコアがつけられ、点数が高いほど食の栄養学的質が高いことを示す。
食事以外のデータの収集にも、有用性が確立されている質問票を用いた。この研究で調べたのは、食に関する価値観(8項目:入手しやすさ、便利さ、健康、伝統、感覚的魅力、有機食品、快適さ、安全性)、栄養に関する知識、料理技術、食全般に関わる技能、食行動(8項目:空腹を感じやすい傾向、食べ物に反応しやすい傾向、感情的になると食べる量が増える傾向、食を楽しむ傾向、満腹になりやすい傾向、感情的になると食べる量が減る傾向、食に関する好き嫌いが激しい傾向、ゆっくり食べる傾向)だった。
食の栄養学的質が高い人は、男女とも好き嫌いが少ない傾向
その結果、男性では、食の栄養学的質が高い人ほど、有機食品を重視し、食に関する好き嫌いが少ない傾向であることがわかった。また女性では、食の栄養学的質が高い人ほど、健康を重視し、栄養に関する知識が豊富で、料理技術が高く、食に関する好き嫌いが少ない傾向であることがわかった。
朝・昼・夕食など食事の種類との関連の検討が必要
今回の研究は、食の栄養学的質と食に関する価値観・知識・技術・行動との関連を包括的に評価した世界で初めての研究である。しかし、食の栄養学的質は、食事の種類(朝食、昼食、夕食、間食)によって大きく異なることが知られている。今後は、食に関する価値観や知識・技術・行動といったフードリテラシーと食の栄養学的質との関連が、食事の種類によって異なるかを明らかにしていく必要がある。「研究成果は、健康的な食事を目指した効果的な政策、教育・介入プログラムの科学的な基盤となると考えられる」と、研究グループは述べている。
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・東京大学 プレスリリース