髄液中のみでMOG抗体陽性のMOGADの一群、MSとの異同を解析
東北大学は4月26日、多発性硬化症(以下、MS)の類似疾患であるミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(以下、MOG)抗体関連疾患について、診断的意義・免疫病態を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科神経内科学分野および同大病院脳神経内科の松本勇貴大学院生、三須建郎講師、青木正志教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain」電子版に掲載されている。
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MSは中枢神経系の脱髄性疾患であり、多様な免疫病態の集まりであることが知られている。研究グループもこれまで、MSの類似疾患であるアクアポリン4(AQP4)抗体が関連する視神経脊髄炎関連疾患(以下、NMOSD)がMSから独立した疾患概念であることを明らかにしてきた。このようにMSは、多様な病態から一つひとつ新たな病態が明らかにされ、分離されてきた歴史がある。一方MSは、その病態の中心に脳内で持続的な抗体産生を意味するオリゴクローナルバンドが陽性となる特徴から、脳内で持続的に自己抗体産生を促す異所性リンパ濾胞構造が病態の中心にあると考えられている。
近年、AQP4抗体陰性のNMOSDの一群においてMOG抗体の陽性例があることが発見された。MOG抗体は、NMOSDと同様に視神経炎や脊髄炎を来すと考えられている。主に血清でMOG抗体が陽性となる臨床表現型として、視神経炎や脊髄炎、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、脳/脳幹脱髄症候群、皮質性脳炎などが報告され、MOG抗体関連疾患(MOGAD)と呼ばれるようになった。さらに、髄液中でのみMOG抗体が陽性となる一群が新たに発見され、この一群がMSにおける持続的な脳内抗体産生病態と類似することから、MSとMOGADの異同が注目されている。
MOG抗体陽性、MOGADでは133例、MSでは2例のみ
研究グループは今回、MOGAD患者において、MOG抗体が髄液中のみで産生される一群があることに着目。全国からMOG抗体測定依頼のあった症例の中で、同日に採取された血清および髄液を測定可能な671例(MOGAD疑い405例、MS 99例、AQP4抗体陽性NMOSD 48例、対象群119例)を用いて、血清および髄液MOG抗体の病因的かつ診断的意義について解析を行った。
その結果、診断目的で検査した671例中、33%にあたる133例でMOG抗体陽性であり、94例は血清・髄液で陽性、17例は血清のみ、22例は髄液のみ陽性だった。MSにおいて2例の髄液MOG抗体陽性例を認めたが、それ以外ではMSやNMOSDや対象群では陰性だった。抗体価は、NMOSDにおけるAQP4抗体価は血清および髄液で強い正の相関が認められたが、MOG抗体では相関性が乏しい特徴があり、NMOSDが末梢性の抗体産生であるのに対し、MOGADはより脳内MOG抗体産生が優位であることが示唆された。
髄液MOG抗体は、特に皮質性脳炎と関連することが判明
多変量解析では、血清MOG抗体は臨床表現型として視神経炎や急性散在性脳脊髄炎(ADEM)と関連する一方、髄液MOG抗体はADEMや皮質性脳炎と関連した。髄液MOG抗体のみ陽性例は、平均して血清MOG抗体陽性例13.3人を診断する中で1人が陽性だったが、皮質性脳炎では2人に1人の割合で髄液のみ陽性となることから、診断的意義が高いことが判明。一方、視神経炎では髄液のみ陽性例はいなかったという。
臨床表現型の違いによる優先すべき検査の判断など、臨床への応用に期待
今回の研究では、血清および髄液MOG抗体価は、多くは両者で陽性だが、MOGADの13%は血清のみ、17%は髄液のみで陽性となった。さらに、視神経炎においては血清での検査が優先される一方、皮質性脳炎では髄液での検査が優先され得ることが示された。MOG抗体の有無は臨床表現型と強く関連していることから、中枢神経内でのみ産生される区画化した抗体産生機序をより明らかにし、免疫病態を臨床的・病理学的に明らかにしていく必要がある。研究グループは今後、MOGAD抗体が脳内で持続的に産生される一群を前向き研究において詳細に検討し、MSと同様の臨床表現型となり得る一群であるのか否か検討するという。
「脳内で持続的に産生されるMSの自己抗体は未同定であり、MOG抗体が原因不明のMS病態の一翼を担い原因究明に迫ることが期待され、臨床・病理学的に検証していく予定」と、研究グループは述べている。
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