「実験的」ではなく、実社会で有効なフレイル・介護予防対策は?
東京都健康長寿医療センター研究所は4月24日、研修を受けたシルバー人材センターの会員が仕事として対価を得ながら各地区に出張し、一定期間教室を運営した後、地域住民による自主運営へとつなげるというモデルに取り組み、開始後3年および5年後に検証した結果、社会的影響力の大きさを示す3つの要素「広がり」「効果」「継続性」で有用性が確認されたことを発表した。この研究は、同センター社会参加とヘルシーエイジング研究チームの村山洋史研究副部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「日本公衆衛生雑誌」および「Preventive Medicine」に掲載されている。
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これまでの研究から、フレイル予防に有効な手段は「栄養」「体力」「社会参加」に集約されると考えられており、これらに一定期間働きかけることでフレイルが改善することが複数の研究により示されている。しかし、いずれも実験的な環境下での成果であり、実際の地域社会の中でフレイルを予防し、さらには、その後の介護予防につなげるための環境整備をいかに行うかについては、いまだ不明確な部分が多い状況である。
「通いの場」を、シルバー人材センター会員が立ち上げ後、住民が自主運営するモデルを検討
研究グループは、2014年から兵庫県養父市において健康寿命の延伸を目的としたアクションリサーチを行ってきた。その中で、「身近な場所に誰もが継続して参加できる、フレイル予防を目的とした〈通いの場〉を開設する」という目標を掲げ、実現に向け課題となった担い手不足を解決するために、「研修を受けたシルバー人材センターの会員が仕事として対価を得ながら各地区に出張し、一定期間教室を運営した後、地域住民による自主運営へとつなげる」というモデルを提案し、実践した。具体的には、「栄養・体力・社会」の3側面に働きかける週1回約60分の「毎日元気にクラス」(フレイル予防教室)を定期的に開催した。
実施以前と比べ、参加者のフレイルのリスクが約50%抑制
開始から3年間で、154行政区中36地区(23.4%)に通いの場が開設され、開設地区に住む高齢者の32.8%が参加した。また、開設された通いの場のうち96.2%が住民による自主運営につながった。これらのことから、「非専門家であるシルバー人材センターの会員が仕事として通いの場を立ち上げ・運営し、その後住民による自主運営につなげる」という同モデルの有用性が示唆された。なお、2022年10月現在時点では154行政区中93地区(60.4%)に拡大している。
次に、2012年と2017年に実施した両郵送調査に回答した65歳以上の男女4,249人のデータを用いて、通いの場の効果を検証した。参加者と非参加者の生活習慣等の違いをマッチングさせる手法を用いて両者の5年間の変化を比較した結果、参加者では運動が習慣化され、食品摂取の多様性が向上したこと、フレイルのリスクが約50%抑制されたことが示された。
要支援・要介護認定のリスクも約50%抑制
さらに、2012年の郵送調査の回答者について、介護保険情報をもとに6.8年間(取組開始後4.8年間)追跡し、通いの場への参加と新規要支援・要介護認定との関係を分析した。参加者と非参加者の生活習慣等の違いを複数の方法で調整した結果、いずれの方法においても、参加者では非参加者に比べ、介護予防への好影響(要支援・要介護認定のリスクが約50%抑制されたこと)が明示された。特に75歳以上で著しいリスクの減少が認められた。
研究により、他地域でも展開可能な住民主体のフレイル予防さらには介護予防のモデルが提示され、その有用性が示された。現在、研究チームは、埼玉県シルバー人材センター連合と協働し、県内での普及・展開を目指し取り組んでいる。
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・東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース