都市の夜間の人工光は蚊に刺される機会を増やす?
蚊は夜間の街灯や照明などの人工光の影響を受けるが、それが良いことなのか悪いことなのかははっきりしないようだ。米オハイオ州立大学昆虫学分野のMegan Meuti氏らは、都市の人工光による害(光害)によってウエストナイルウイルスを媒介するイエカ属の亜種であるトビイロイエカの冬期の休眠が妨げられている可能性があるとする研究結果を、「Insects」1月10日号に発表した。
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冬期に休眠する種類の蚊の休眠が妨げられることには、良い面がある。というのも、冬期に休眠しない蚊は十分な脂肪を蓄えることができず、生存期間が短くなる可能性があるからだ。しかし、その一方で悪い面もある。蚊が人間の血を吸う期間が秋頃まで延びる可能性があるからだ。
Meuti氏らによると、米オハイオ州では、夏の終わりごろから秋の初めごろにかけてウエストナイルウイルスの感染レベルが最大になる。「この時期は、蚊がウエストナイルウイルスに感染している可能性が高い時期にあたるため、蚊が休眠に入る時期が遅れて活動期間が延びると、人間がウエストナイル熱に罹患するリスクも極めて高くなる」と同氏は指摘する。
蚊の活動期は春から秋までで、冬には洞窟や排水溝、物置などの身を守ることができる場所で春まで休眠する。この期間には、植物の蜜のみを摂取して、その糖分を体の脂肪に変えて冬に備える。日が長くなると、雌の蚊は卵を産むために餌となる血液を求めるようになる。その一部は、ウエストナイルウイルスに感染した鳥類の血を吸うことで、自身もウエストナイルウイルスに感染し、それが人間や馬などの哺乳類を刺せば、哺乳類にもウイルスが伝染する可能性がある。
Meuti氏らの研究は、複数の先行研究の結果に基づき行われたものだ。その一つでは、休眠中の蚊と休眠していない蚊の間で概日リズム(体内時計)を司る時計遺伝子の発現に違いがあり、いつ休眠に入るべきかを決定付けているのは日照時間の長さであることが示唆されていた。また、Meuti氏の共同研究者である同大学昆虫学分野のLydia Fyie氏が主導した研究では、夜間に薄明かりにさらされた雌の蚊は、休眠に入るべき時期に繁殖活動が活発になることが明らかにされていた。
こうした先行研究の結果を踏まえ、Meuti氏らは今回、実験室で休眠期を回避させる日照時間の長い環境(長日環境)と、休眠期を誘導する日照時間の短い環境(短日環境)を人工的に作り出し、それぞれの環境下での蚊(トビイロイエカ)の活動パターンとグリコーゲンや水溶性炭水化物などの栄養分の蓄積状態を比較した。また、それぞれの環境下で蚊を夜間の人工光にさらした場合とさらさなかった場合の比較も行った。
その結果、休眠期間に相当する短日環境下に置かれた蚊の活動性は低下するが、活動性の概日リズムは維持されていることが明らかになった。しかし、夜間の人工光はこうした活動パターンに作用し、短日環境下に置かれた蚊の活動レベルをわずかに増やすことが確認された。さらに夜間の人工光は、蚊が冬を乗り越えるために必要な栄養の獲得にも影響を及ぼしていた。具体的には、蚊を人工光にさらすことで、長日環境と短日環境の両条件下で、越冬に不可欠な水溶性炭水化物の蓄積量が抑制されることが示された。また、グリコーゲン(エネルギー源となる糖の一種)の蓄積量は、通常の環境下では休眠していない蚊でのみ豊富だ。しかし、夜間に人工光を照射することで、その蓄積パターンが逆転し、長日環境下に置かれた蚊ではグリコーゲンがあまり蓄積されず、短日環境下に置かれた蚊では蓄積量が増加することも明らかになった。これらの結果は、光害が蚊の体内時計のシグナル伝達を阻害し、蚊を休眠から遠ざけている可能性のあることを示している。
研究論文の筆頭著者である同大学昆虫学分野のMatthew Wolkoff氏は、「これは哺乳類にとって、短期的には望ましくないことだ。これまでよりも遅い時期まで蚊に刺される可能性があるからだ。しかし、長期的には蚊にとっても望ましいことではない。なぜなら、休眠期となる冬を生き延びるために必要な準備に全力で取り組めず、生存率の低下につながる可能性があるからだ」と説明している。
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