DMD細胞治療法の開発に向け、ヒト細胞を移植可能なモデル動物が必要
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は4月24日、免疫不全ラットとデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)モデルラットを交配させた免疫不全DMDモデルラットが、DMD患者と同様に重篤な症状を示したこと、さらに、この免疫不全DMDモデルラットにヒト不死化骨格筋芽細胞を前脛骨筋に移植した結果、生着したことを世界で初めて報告した。この研究は、同大CiRA臨床応用研究部門の佐藤優江特定研究員、櫻井英俊准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Physiology」オンライン版に掲載されている。
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DMDは、筋肉にあるジストロフィンというタンパク質が欠損することによって筋肉が変性や壊死する進行性の重篤な筋疾患で、根本的な治療法は開発されていない。また、DMDでは、病状の進行に伴い呼吸機能と心機能が低下し、呼吸不全および心不全となり致死的な病態となる。
研究グループはこれまでに、ヒトiPS細胞から高い再生能を持つ骨格筋幹細胞の誘導に成功している。DMDの細胞移植治療を行うためには、移植する細胞の評価を行うモデル動物が必要だ。そこで今回の研究では、ヒト細胞を移植することが可能となる免疫不全のDMDモデルラットを作製し、病理学的評価、生化学的評価、運動機能評価を実施した。
免疫不全DMDモデルラットを作製、運動機能や各筋重量などDMD患者の病態再現を確認
はじめに、免疫不全ラットにDMDモデルラットを交配させ、免疫不全DMDモデルラットを作製した。免疫不全DMDモデルラットは68週齢で死亡することが明らかとなり、極めて症状が重篤であることが示唆された。
また、筋破壊の指標である尿中タイチンを測定したところ、免疫不全DMDモデルラットは野生型ラットと比較して有意に上昇していた。運動機能評価として前肢の握力を測定するGripテストを実施したところ、免疫不全DMDモデルラットでは野生型ラットに比べ有意に低下していた。さらに12か月齢の免疫不全ラットと免疫不全DMDモデルラットの各筋重量を比較したところ、近位筋である大腿四頭筋で骨格筋重量が低下し、心筋では重量の増大を認めた。これらの所見はDMD患者において認められる病態と類似しており、患者の病態を模倣していることが示唆された。
免疫不全DMDモデル「ラット」は従来のモデル「マウス」よりも患者の病態に近いと判明
DMD患者では重篤な呼吸筋障害と心不全を示すことから、作製した免疫不全DMDモデルラットについて、横隔膜と心臓の繊維化をシリウスレッド染色で確認した。その結果、免疫不全DMDモデルラットでは横隔膜、心臓において月齢を経るごとに繊維化が進行していることがわかった。進行性に繊維化が進行していく過程は、DMD患者の病態と相関している。免疫不全DMDモデルマウスでは認められない病態であることから、この免疫不全DMDモデルラットが、より患者の病態に近い重篤な病態を示すことが病理組織的解析により確認された。
「ヒト」不死化筋芽細胞をモデルラットの筋肉内へ移植、3週間後も生着
さらに、今回作成した免疫不全DMDモデルラットに、ヒト不死化筋芽細胞であるHu5/KD3細胞が生着するか確認するため、筋肉内への移植実験を行い、3週間後にもヒト不死化細胞が生着し、ヒトスペクトリン陽性かつジストロフィン陽性筋線維を再生していることがわかった。
研究グループは、「今回、細胞製剤の機能評価に利用可能な免疫不全DMDモデルラットを確立したことにより、DMD患者のための細胞移植治療研究を加速させることが期待される」と、述べている。
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・京都大学iPS細胞研究所(CiRA)