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脳疾患の遺伝子治療に新手法、超音波と微小な泡を利用し血液脳関門を開放-京大ほか

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2023年04月25日 AM11:36

マウス血管内投与で全脳に遺伝子導入可能なAAV9ベクター、霊長類ではうまく機能しない

京都大学は4月20日、新規に開発したウイルスベクターと経頭蓋集束超音波照射を利用したベクターデリバリー手法により、サルにおいて血液脳関門を物理的かつ一時的に開放して、血管内投与したベクターを脳の目標部位に局所的に導入し、外来遺伝子を発現させることに成功したと発表した。この研究は、同大学ヒト行動進化研究センターの高田昌彦特任教授、井上謙一同助教、(HM CINAC)のJose Obeso教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳疾患の治療を行う際、これまでは開頭手術により直接、脳の病変部位に治療用の薬剤などを注入したり、特定の脳領域に電極を刺入して電気刺激や電気凝固を施したりしていた。近年、遺伝子治療研究分野では、神経疾患の治療のためにウイルスベクターの血管内投与による全脳的な遺伝子導入手法に期待が集まっており、ベクターの脳への移行を妨げる血液脳関門(BBB)を越えるような遺伝子導入ベクターの開発が精力的に進められてきた。

特に最近、9型のアデノ随伴ウイルス(9)ベクターやその改変型がBBBを越えて脳に目的遺伝子を導入できることが示され、マウスでは血管内投与で全脳的な神経細胞(ニューロン)への遺伝子導入が可能であることが報告された。しかしながら、これらのベクターはサルをはじめ霊長類の脳ではうまく機能せず、いまだ全脳的なニューロンへの遺伝子導入には至っていない。今回の研究では、ヒトに近縁なモデル動物であり、感覚・運動・認知などのさまざまな脳機能を支える神経回路に関する知見が集積されているサル類(マカクザル)において、新規に開発したウイルスベクターと経頭蓋集束超音波照射(tFUS)を利用したベクターデリバリー手法により、非侵襲的な霊長類脳への遺伝子導入を実現し、その技術を実用的なレベルで確立することを目的としている。

微小な泡+超音波でBBBを一時的に開放、AAVベクターを脳の局所に注入・発現確認

研究グループは、血管内投与によりサル脳への外来遺伝子導入に成功したキャプシド改変型AAV9ベクターと、tFUSと微小な泡(マイクロバブル)を組み合わせてBBBを一過性に開放する技術を用いて、特定の脳領域に選択的かつ非侵襲的にニューロンへの遺伝子導入を実現する先端技術を開発した。具体的には、tFUS装置を使用し、前もって静脈を介して血液中に送り込んだマイクロバブルに超音波を当て、そのバイブレーション・キャビテーション効果により特定の部位のBBBを物理的かつ一時的に広げて、血管内投与したAAVベクターを脳の目標部位に局所的に注入し、目的遺伝子の発現を確認した。

解放されたBBBは30日後に閉鎖、多少の炎症はあるが組織損傷はなし

まず、BBBが開放されたサルの脳部位を造影剤であるガドリニウムを血管内投与してMRIで確認した。開放直後、目標部位である被殻に限局して比較的広範囲にBBBが開放されていたが、開放後30日目ではBBBがすでに閉鎖しており、ガドリニウムの沈着は認められない事が確認された。

次に、免疫組織化学染色によりスライスした脳組織をGFP(AAV9ベクターに搭載されたレポータ)に対する抗体で染色したところ、MRIで示されたBBBの開放部位とほぼ同じレベルの被殻において、多数のニューロンにGFPが発現し、目的遺伝子が導入されていることが確認された。ほぼ同じレベルの被殻の組織標本で、細胞構築を示すニッスル染色、炎症性ミクログリアの集積を示すIba1抗体とアストログリアの集積を示すGFAP抗体による免疫組織化学染色を行い、多少の局所的な炎症は認められるものの、組織損傷は認められないことがわかった。

以上の結果は、tFUSとウイルスベクターの血管内投与により、非侵襲的に特定の脳領域に選択的な遺伝子導入を可能にする手法をサルにおいて確立したことを示しており、今後、この技術が実用的なレベルにまで発展し、近い将来に臨床応用できることが期待される。

特定の脳領域に非侵襲的な遺伝子導入が可能、神経疾患などの治療法開発に寄与すると期待

特定の脳領域に選択的かつ非侵襲的な遺伝子導入を実現する今回の研究成果は、遺伝子治療技術を飛躍的に進展させ、特にパーキンソン病などの神経疾患に対する安全な治療法の開発に大きく寄与することが期待される。「今後は、実際に霊長類の疾患モデルにおいて、この技術が有効であることを検証するとともに、最終的にはウイルスベクターに搭載するプロモータなどを利用した遺伝子発現制御技術と組み合わせることによって、特定の脳領域の特定のニューロン群に対してより安全な遺伝子操作を行うことを可能にする基盤技術を確立したいと考えている」と、研究グループは述べている。

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