糖尿病の増加抑制には、誰もが・どこでも血糖値を測れる装置が必須
筑波大学は4月19日、血糖値を自宅で簡単に測れる自己駆動型の使い捨てセンサーを開発したと発表した。この研究は、同大数理物質系 辻村清也准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biosensors and Bioelectronics」に掲載されている。
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糖尿病治療では、自己血糖計測(Self-Monitoring of Blood Glucose、SMBG)が推奨されている。最近では連続血糖計測(CGM)の普及も目覚ましく、これらの計測器は糖尿病患者の血糖管理に欠かすことができなくなっている。
国内の糖尿病推計患者数は2016年に1000万人を超えた。また、糖尿病予備軍も1000万人程度いるとされる。With/postコロナ社会においてリモートワークが進めば、運動不足などによる糖尿病の増加も懸念される。健康診断などにおいて指導が行われているが、自覚症状のない糖尿病においては容易ではない。
非患者に対する自宅での血糖簡易検査を普及させる上で障壁となるのは「どのように計測するか」という点だ。専用の外部装置無しに、血液を付けるセンサーチップだけを使い、誰もが、どこでも血糖値を測ることができれば、SMBGの非患者への普及につながると期待される。また、特定のタイミングで血糖検査(空腹時血糖値と食後血糖値を計測するなど)ができれば、糖尿病の判定精度を格段に上げることができ、健康意識の向上を促し、糖尿病患者の増加を抑えることができると期待される。これまでも尿検査試験紙などの簡易検査法はあったが精度の点で劣り、得られる情報が限定的だった。
研究グループはこれまで、電気化学式のバイオセンサーやバイオ燃料電池に関する研究を行ってきた。バイオ燃料電池は、負極(アノード)でグルコースの酸化反応を、正極(カソード)で酸素の還元反応を行い、反応の化学エネルギーを電気に直接変換するデバイスだ。電池の出力値がサンプル濃度に依存するようにデザインすることで、検体濃度を連続計測できる。今回の研究では、この成果を生かして、スマートフォンのような汎用機器で読み取りができ、外部電源不要で自己駆動型の使い捨てSMBGセンサーチップの開発を目指した。
電源などの外部装置をセンサーチップに全て集約し、自己駆動型SMBG計測を実現
一般的なSMBG計測器は、血液を付けるセンサーチップと専用の外部装置の組み合わせでできている。専用の外部装置は、電極電位を制御するとともに流れる電流を測るポテンショスタット、電源、メモリー、ディスプレーなどで構成されている。
同研究ではこれらの機能をセンサーチップに全て集約することで、自己駆動型SMBG計測を実現した。
センサーチップが血糖値の「計測センサー」としても使えることを確認
専用の測定機器を用いずに反応を進行させるために、センサーチップの対極に酸素還元触媒を塗布。これにより、バイオ燃料電池の要領で反応を進行させることが可能だという。つまり、外部からエネルギーを供給することなく、反応が進行する電極電位を制御しながら、グルコースの検出反応を行うことができる。
一方、グルコース酸化極には、グルコース脱水素酵素と、酵素と電極間の電子移動を促進させるレドックスメディエーターを、架橋剤を用いて固定化。酸素還元極には、非白金の炭素系の酸素還元触媒を用いた。
それぞれを電極上にコートした後、乾燥させてバイオセンサーとした。グルコース濃度の異なる溶液を5μLだけセンサーに滴下し、両極を結んで得られる電流を計測したところ、グルコース濃度がゼロから30mM(540mg/dL)の広い範囲で比例しており、血糖値を計測するセンサーとして使えることが確認できたとしている。
自己駆動型簡易センサーの応用で、多様なマーカー検査を高精度/簡便に行うことが可能
糖尿病は、早期発見し適切な治療をすれば、十分に回復させることができる。研究グループは今回の研究成果をふまえ、自宅で簡便かつ高精度に血糖検査ができるセンサーシステムを安価に提供することができるとしている。実際に、血糖値の読み取りは専用機器を用いず、汎用のスマートフォンとセンサーチップとをUSB ケーブルで接続するだけで可能だ。
また、同研究で開発した自己駆動型簡易センサーの原理を応用すれば、測定対象とするバイオマーカーが変わったとしても、それに対応する酵素を電極にコートすることで、多様なマーカーの検査を精度良く簡便に行うことができるようになると考えられる。
「自宅で検査結果が得られるため、そのデータをオンライン診療に生かすこともできる。それが実現すれば、遠距離通院が強いられる過疎地域や高齢化が進む地域の医療の円滑化にも貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL