パニツムマブ、原発巣が「左側」の患者に有効である可能性を先行研究で示唆
横浜市立大学は4月19日、RAS遺伝子野生型で化学療法未治療の切除不能な進行再発大腸がん患者に対し、mFOLFOX6+抗VEGF抗体薬(ベバシズマブ)併用療法とmFOLFOX6+抗EGFR抗体薬(パニツムマブ)併用療法の有効性および安全性を比較した前向きランダム化比較試験(PARADIGM試験)を実施した結果、抗EGFR抗体薬の併用療法群で、主要評価項目である全生存期間(OS)が統計学的に有意に延長したことを発表した。この研究は、同大附属市民総合医療センター消化器病センター外科の渡邉純准教授、国立がん研究センター東病院の吉野孝之副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Medical Association」に掲載されている。
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これまでに、切除不能な進行再発大腸がん患者の一次治療に用いる分子標的薬として、抗EGFR抗体薬と抗VEGF抗体薬を比較した2つの大規模なランダム化比較試験が実施された。RAS遺伝子野生型の大腸がんにおける事後的な解析結果は、両試験間で一致しておらず、どちらの薬剤を使用すべきか最終的な結論は出ていなかった。その後、複数の臨床試験の後解析で、RAS遺伝子野生型で原発巣が左側(下行結腸、S状結腸、直腸S状部、直腸)の大腸がん患者に対して抗EGFR抗体薬が有効である可能性が示唆された。
そこで今回の研究では、RAS遺伝子野生型で原発巣が左側の大腸がん患者における一次治療として、抗EGFR抗体薬、抗VEGF抗体薬のどちらを用いるのが最適か、真のエンドポイントである全生存期間を主要評価項目として世界で初めて前向きに検証した。
P3のPARADIGM試験、根治的切除不能・未治療の823人を登録
PARADIGM試験は、RAS遺伝子野生型で化学療法未治療の切除不能な進行再発大腸がん患者を対象に、mFOLFOX6+抗VEGF抗体薬併用療法とmFOLFOX6+抗EGFR抗体薬併用療法の有効性と安全性を評価する多施設共同第3相ランダム化比較試験(NCT02394795)。全国197施設の協力のもと実施された。主要評価項目は、原発巣が左側の患者における全生存期間とし、パニツムマブ群の優越性が検証された場合には、全患者においてもパニツムマブ群の全生存期間における優越性を検証するデザインとした。対象の主な組み入れ規準は、年齢が20~79歳、根治的切除不能なRAS遺伝子野生型の大腸がんと診断、大腸がんに対する化学療法を受けたことがない、全身状態が良好(ECOG PSが0または1)である、十分な臓器機能を有するなどであった。
2015年5月~2017年6月の間に登録された823人は、1:1にmFOLFOX6+抗VEGF抗体薬(ベバシズマブ)併用療法(ベバシズマブ群)か、mFOLFOX6+抗EGFR抗体薬(パニツムマブ)併用療法(パニツムマブ群)に割り付けられ、どちらかの治療を受けた。823例のうち、有効性解析集団(パニツムマブ群/ベバシズマブ群)は原発巣が左側の患者で312/292人、全患者で400/402人だった。
原発巣が左側の患者の5年生存割合、パニツムマブ群32%、ベバシズマブ群21%
フォローアップ期間(中央値5.1年)において、主要評価項目である全生存期間(中央値)は、原発巣が左側の患者において、パニツムマブ群:37.9か月、ベバシズマブ群:34.3か月で、ハザード比:0.82(95.798%信頼区間:0.68-0.99、P=0.03)と、統計学的に有意にパニツムマブ群で延長したことが示された。また、生存割合は、無作為割り付け後の約28か月時点以降からパニツムマブ群がベバシズマブ群を上回るように差が開く経過だった(パニツムマブ群/ベバシズマブ群、3年生存割合:53%/47%、4年生存割合:42%/33%、5年生存割合:32%/21%)。
全患者の全生存期間、パニツムマブ群が有意に延長
さらに、全患者においても、全生存期間(中央値)はパニツムマブ群:36.2か月、ベバシズマブ群:31.3か月で、ハザード比:0.84 (95%信頼区間:0.72-0.98、P=0.03)と、統計学的に有意にパニツムマブ群で延長したことが示された。
グレード3以上の有害事象、パニツムマブ群71.8%、ベバシズマブ群64.9%
安全性に関して、いずれの治療群においても新たな懸念は認められなかった。パニツムマブ群では、71.8%の患者がグレード3以上の有害事象を経験したのに対し、ベバシズマブ群では64.9%の患者が経験した。また、パニツムマブ群では、にきび様皮膚炎、爪周囲炎、乾燥肌、低マグネシウム血症がより多く観察された。
PARADIGMバイオマーカー試験が進行中
研究により、RAS遺伝子野生型で原発巣が左側の大腸がん患者における一次治療の第一選択として抗EGFR抗体薬を用いることが推奨される可能性が示された。日本から発信する世界初の明確なエビデンスは、国内外の大腸がん治療ガイドラインに記載され、今後RAS遺伝子野生型の大腸がん患者に適切な一次治療を提供できるようになることが期待される。
また、今回の研究とあわせて、治療反応予測因子、耐性メカニズムを明らかにすることを目的としたPARADIGMバイオマーカー試験(NCT02394834)が進行中である。「PARADIGM試験から得られた約800人の日本人大腸がん患者の臨床データとバイオマーカーを紐づけた解析によって、大腸がんのさらなる治療成績の向上と薬剤開発の可能性につなげることも期待される」と、研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース