東京の高齢者1,607人を対象に運動習慣とサルコペニアの関連を検討
順天堂大学は4月17日、都内在住の高齢者1,607人を対象とした調査により、中学・高校生期と高齢期の両方の時期に運動習慣がある高齢者では、サルコペニアや筋機能低下のリスクが低いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科スポートロジーセンターの田端宏樹博士研究員、田村好史先任准教授、河盛隆造特任教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」オンライン版に掲載されている。
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日本を含むアジア人は欧米人に比べBMIの低いやせ型の人が多く、生来の骨格筋量が少ないため、高齢者はサルコペニアに陥りやすいと言われている。運動は骨格筋機能を維持・改善できるためサルコペニアの予防に有効だが、生涯のいずれの時期の運動実施が高齢期の骨格筋機能の維持、つまり、サルコペニアの予防により有効なのかは十分に解明されていなかった。骨格筋機能は20~25歳でピークを示し、50歳前後から徐々に低下していくことより、ピークを高める中学・高校生期と低下を抑える高齢期での運動実施がサルコペニアの予防により重要な運動実施時期である可能性がある。
そこで研究グループは今回、東京都文京区在住の高齢者を対象とした観察型コホート研究「Bunkyo Health Study(文京ヘルススタディー)」において、中学・高校生期と高齢期の運動習慣とサルコペニアおよび骨格筋の筋量低下、筋パフォーマンス低下との関連について検討した。
若いうちからの運動習慣で男性はサルコペニア少、女性は筋力・身体機能低下者少
研究では、文京ヘルススタディーのベースライン測定に参加した65~84歳の高齢者1,607人(男性679人、女性928人)の骨格筋機能指標(骨格筋量、握力、脚伸展・屈曲筋力、最大歩行速度、血中マイオカイン濃度)および質問紙を用いた運動習慣調査のデータを用いて解析を行った。サルコペニアは「AWGS2019」の診断基準を参考に、握力(男性<28kg、女性<18kg)、DXA法による骨格筋量(男性<7.0kg/m2、女性<5.4kg/ m2)、最大歩行速度(男性<1.46 m/s、女性<1.36m/s)で診断した。中学・高校生期の運動習慣の有無と現在(高齢期)の運動習慣の有無とで4群に分け、サルコペニアの有病率、サルコペニアの診断要素の保有率および骨格筋機能指標を比較した。
その結果、男性では中学・高校生期と高齢期の両方で運動習慣を有する人では両時期で運動習慣を有さない人に比べ、サルコペニアの有病率が0.29倍、筋量低下の保有率が0.21倍、筋力・身体機能低下の保有率が0.52倍低く、女性ではサルコペニアの有病率に差はみられなかったものの、中学・高校生期と高齢期の両方で運動習慣を有する人では両時期で運動習慣を有さない人に比べ、筋力・身体機能低下の保有率が0.53倍低いことが示された。
若い頃の運動機会を増やすことが、将来の「健康長寿社会」創出につながる可能性
今回の研究により、男性は中学・高校生期と高齢期の両方の時期に運動することで、サルコペニアのリスクを低減できる可能性が明らかになった。また、女性も中学・高校生期と高齢期の両方の時期に運動することにより、高齢期の筋力・身体機能の低下リスクを低減できる可能性が示された。
注目すべきは高齢期の運動だけでなく、数十年前の中学・高校生期の運動が高齢期の骨格筋機能の維持に関連している可能性を示している点だと言える。昨今、少子化や働き方改革などにより学校における部活動の在り方が変わり、中学・高校生期に運動に取り組む機会が減少してきている。実際にスポーツ庁の調査では、2009~2018年の間に中学生の運動部活動所属者が約13.1%減少したと報告されている。同研究成果は、若い頃の運動の長期的な意義を示唆しており、若い頃に参加しやすい運動やスポーツの機会を増やしていくことが将来の健康長寿社会の創出につながると期待される。
「今回、中学・高校生期と高齢期の運動が骨格筋機能に良い影響を与え得ることが示唆されたが、それぞれの時期にどのような運動をどれくらい行うことが必要かなど、まだ不明の点が多く残されており、今後さらなる研究を進めていく」と、研究グループは述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース