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アンジェルマン症候群、治療法につながる神経機能障害の機序を解明-北大ほか

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2023年04月20日 AM11:56

遺伝性疾患アンジェルマン症候群、神経機能障害の機序解明は不十分

北海道大学は4月18日、遺伝性の発達障害性疾患であるアンジェルマン症候群における、神経機能障害のメカニズムの一つを解明し、知的障害を改善しうる薬剤を特定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の江川潔助教、浜松医科大学の福田敦夫教授(研究当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アンジェルマン症候群は知的障害、てんかん、運動失調、自閉傾向など多くの神経機能障害を示す、通常1歳頃から明らかとなる先天性の発達障害性疾患である。出生1万5,000人に対し1人程度発症するとされ、日本では約1,000人前後の患者が診断を受けている。知的障害は重度で半数以上が意味のある言葉を獲得できないとされているが、有効な治療法は確立していない。またアンジェルマン症候群は、ユビキチン・プロテアソーム経路におけるE3リガーゼの一つであるE6-APをコードする遺伝子UBE3Aの機能欠失に起因することがわかっているが、神経機能障害の具体的な機序は十分に解明されていない。

モデルマウスの海馬におけるGABA作動性神経伝達を評価

研究グループはこれまで、Ube3a遺伝子の機能を欠失させた、アンジェルマン症候群モデルマウスを用いて神経生理学的研究を行い、小脳顆粒細胞におけるGABA持続電流の減少が運動機能障害の原因であることを明らかにするなど、GABA作動性抑制性神経伝達の機能不全がアンジェルマン症候群の病態生理の一つであることを示してきた。GABA作動性抑制はクロライドイオンの流入により惹起されるため、神経細胞内のクロライド濃度がその制御に重要なファクターとなる。近年、細胞内にクロライドイオンを汲み入れるNKCC1、同じく汲み出すKCC2といったイオントランスポーターの機能不全が、自閉症やてんかんなど、さまざまな脳機能障害性疾患の機序の一つであることが報告され、創薬のターゲットとしても注目されている。そこで研究グループは、アンジェルマンモデルマウスの海馬におけるNKCC1、KCC2のタンパク質発現、細胞内クロライド濃度やGABA作動性神経伝達を評価し、治療法の確立につながる手がかりを探索した。

過剰なNKCC1を抑制するブメタニド投与により物体認識記憶が改善

まず、生後3か月齢のアンジェルマン症候群マウスと野生型マウスからそれぞれ海馬を取り出し、、KCC2タンパク質の発現をウエスタンブロット法にて評価した。その結果、海馬でのNKCC1の発現はアンジェルマン症候群モデルマウスで有意に亢進しており、KCC2は逆に減少していることが明らかとなった。これらの結果から、モデルマウスの神経細胞では細胞内クロライド濃度が上昇していることを予想し、生後3~4週齢のマウスから作成した脳スライス標本における海馬錐体細胞を対象として、グラミシジン穿孔パッチクランプ法による細胞内クロライド濃度測定を行った。しかし、実際には神経細胞内のクロライド濃度は平均すると差はなかった。ただ、モデルマウスの方が高い値を示すものから低い値を示すものまで細胞毎の分散(ばらつき)がより大きいという結果が得られた。

次に、同細胞において全細胞電位クランプ記録を用いてシナプス性あるいは非シナプス性のGABA作動性神経伝達の記録を行い、モデルマウスと野生型マウスの差異を比較検討した。その結果、シナプス性の神経伝達に違いはなかったが、シナプス外の神経伝達を担うGABA持続電流は減少しており、細胞内クロライド濃度を上げうる異常、下げうる異常の両者が混在することが細胞内クロライド濃度評価の結果につながったと考察された。アンジェルマン症候群モデルマウスは物体認識記憶の低下を示し、患者における知的障害を反映するとされている。そこで、NKCC1を抑制することが知られている利尿剤のブメタニドの投与を行い、物体認識記憶を評価した。皮下に浸透圧ポンプを留置することでブメタニドを慢性投与し、投与後3~4週間で認知機能を新奇物体認識試験にて評価しところ、物体認識記憶が改善した。つまり、過剰となっているNKCC1は、細胞内クロライド濃度の平均に差がなかったとしても神経機能障害をきたしうることが示された。

脳NKCC1を標的とした薬剤、アンジェルマン症候群治療法の確立につながる可能性

ブメタニドの脳内移行性は低いことが知られており、今回の実験ではその効果を確認するために高用量のブメタニドを投与する必要があった。従って、今回の手法をそのまま患者に試すことは現実的ではない。しかしながら、脳NKCC1あるいはKCC2を標的とした薬剤は他の神経疾患の治療薬として開発が進んでいる。「今回の研究はそのような薬剤が将来的にアンジェルマン症候群患者にも適応される根拠となりうるもので、現時点で治療の選択肢がない本疾患に対する治療法の確立につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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