緩和ケア病棟と自宅、それぞれで受ける治療・ケアによって生存期間に違いはあるか
筑波大学は4月19日、進行がん患者について、自宅で過ごした場合と、緩和ケア病棟で過ごした場合の生存期間の違いについて検証し、それぞれの場所で受けた治療・ケアの影響を考慮しても、予後の見込み期間によっては自宅で過ごす方がやや長い可能性があるものの、ほとんど違いがないことがわかったと発表した。この研究は、同大医学医療系の濵野淳講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
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がん患者の「Quality of death(死の質)」は、最期の時間を過ごす場所の影響を受ける。研究グループが以前に実施した研究で、病院で亡くなった進行がん患者と自宅で亡くなった進行がん患者の生存期間は同等、もしくは、自宅で亡くなった進行がん患者の方が生存期間は長い可能性があることが判明していた。しかし、最期の時間を過ごす場所で受ける治療・ケアによって生存期間に差があるかどうかについては明らかになっていなかった。
今回の研究では、自宅で治療・ケアを受けた進行がん患者(自宅群)と、緩和ケア病棟で治療・ケアを受けた進行がん患者(緩和ケア病棟群)の生存期間に違いがあるかどうかについて、治療・ケアの影響を考慮して検証を行った。
PiPS-Aに基づき、患者予後の期間を日・週・月に層別化
在宅医療を提供している国内の45医療機関で、2017年7月~12月の間に訪問診療を受けた進行がん患者、および、2017年1月~12月の間に、国内23医療機関で緩和ケア病棟に入院した進行がん患者を対象に調査を行った。対象となった患者数は2,998人で、そのうち2,878人が解析対象となった。解析対象者を、PiPS-A(modified Prognosisin Palliative Care Study predictor model A)という客観的な予後予測指標に基づいて、予後が日の単位、週の単位、月の単位の3群に層別化し、それぞれの群において自宅群と緩和ケア病棟群の患者の生存日数を比較した。
予後見込みが「日単位」の場合、過ごした場所によって生存期間に有意差はない
その結果、予後が月の単位、もしくは、週の単位と見込まれる群においては、自宅群の方が、緩和ケア病棟群に比べて生存期間が有意に長かったことが確認された。一方、予後が日の単位と見込まれる群においては、最期の治療・ケアを受ける場所によって生存期間の有意な差は確認されなかった。また、自宅、もしくは、緩和ケア病棟入院中に受けた治療・ケアで生存期間を調整した結果、自宅群の方が、有意に生存期間が長いことがわかった。これらの結果から、亡くなるまでの期間の治療・ケアを、自宅で受けた患者と緩和ケア病棟で受けた患者の生存期間は、同等もしくは自宅で受けた患者の方が長い可能性が考えられた。
治療・ケアの経時的な変化、症状や生存期間への影響を考慮した調査が必要
今回の調査では、亡くなるまでの症状や、受けた治療・ケアが、時間とともにどのように変化して生存期間に影響したか、また、治療・ケアを自宅で受ける患者と緩和ケア病棟で受ける患者に本質的な違いがある可能性などが検討されていない。さらに、ランダム化試験ではないため、測定されていない生存期間に影響しうる変数の影響が考慮されていない点にも留意する必要がある。従って、今回の研究結果のみで「自宅の方が長生きする」と結論付けることはできない。しかし、これらに配慮した上で、自宅で最期の時間を過ごすことが生存期間を縮めるのではないかと心配する臨床医や患者、家族に対して、「その可能性は低い」という説明をすることはできると考えられる。
今後、自宅や緩和ケア病棟で行われた治療・ケアが、時間とともにどのように変化して、症状や生存期間に影響しているかという点を考慮した調査を行い、最期の時間を過ごした場が生存期間に影響を与えるのか、について改めて検証する必要がある。「患者ごとに、最期の時間を過ごす場所を選ぶ際の背景因子などが本質的に違う可能性があるため、それらを考慮した研究方法、もしくは、解析方法が必要だ」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL