TACE不適中期進行肝がん、開発した「ABCコンバージョン治療」の効果は?
近畿大学は4月14日、国内6施設と香港1施設との共同研究において、切除不能な中期進行肝がん患者を治癒に導く新規治療法「Atezolizumab plus Bevacizumab followed by Curative Conversion治療(ABCコンバージョン治療)」を世界で初めて開発したと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室の工藤正俊主任教授を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「Liver Cancer」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
中期進行肝がんでは、カテーテルで抗がん剤と塞栓物質を注入してがん細胞の増殖を抑える「肝動脈塞栓療法(TACE)」という治療法が一般的と言われているが、研究グループが2019年にTACEの効果が期待できない病態を初めて提唱し、日本の「肝癌診療ガイドライン」に掲載したことで、その後、ヨーロッパや米国にもその概念が取り入れられるようになった。現在、TACE不適の患者に対する新規治療法開発が、世界的に緊急の課題となっている。
肝がんの治療薬としては、長い間ソラフェニブ(商品名:ネクサバール)やレンバチニブ(商品名:レンビマ)が用いられてきたが、2020年にアテゾリズマブ(商品名:テセントリク)とベバシズマブ(商品名:アバスチン)という、免疫チェックポイント阻害剤を併用する治療法が保険承認となり、進行肝がんを中心に多数の患者に使用が開始された。同研究グループの主任研究者である工藤正俊主任教授は、アテゾリズマブとベバシズマブの併用療法が、進行肝がんだけでなく、TACE不適の中期進行肝がんの患者にも適応でき、その治療効果により腫瘍が縮小した段階で切除・ラジオ波などの治療に踏み切ることで完全に治癒できるのではないか、という仮説を立てた。また、腫瘍が縮小しない場合もTACEを加えることで、腫瘍壊死だけでなく腫瘍抗原が放出され、その後の免疫療法(アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法)により、免疫作用が賦活されることで根治が得られるのではないか、という仮説も立てた。
この仮説をもとに、切除できない中期進行肝がんに対して先行して複合免疫療法(アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法)を行い、腫瘍縮小効果が得られた時に根治治療を行う「ABCコンバージョン治療」を新たに開発し、効果を検討した。
アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法導入済110症例に対する効果を検討
研究グループは、多施設共同研究においてTACE不適の基準を満たす中期肝がんを対象に、ABCコンバージョン治療の成績と適応を明らかにする目的で解析を行った。対象となったのは、7施設における切除不能かつTACE不適の中期肝がんにおいて、1次治療としてアテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法を導入したChild-Pugh Aの連続110症例。
この110例に対し、切除やラジオ波および選択的TACEにてABCコンバージョン治療を行った症例における根治率、薬物不使用でも再発をしない割合、肝予備能の維持率、PET検査陽性肝がんに対する有効性、無増悪生存期間、全生存期間について検討した。
アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法先行投与による中期肝がん根治率は35%
ABCコンバージョン治療は44例に行い、38例が根治となった。ABCコンバージョン治療の内訳は、切除7例、アブレーション(TACE後アブレーションを行った症例を含む)13例、選択的TACE(レンバチニブ-TACE逐次治療を含む)14例であり、アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法のみでmRECISTの基準において腫瘍が完全に消失している症例は4例だった。
このうち、薬物治療を終了しても再発がない症例は現時点で25例(観察期間中央値21.2か月)、また、無増悪生存期間は31.8か月で根治後に再発がみられたのは2例のみだった。全生存期間では1例も死亡例はみられず、良好な結果が得られた。ALBI gradeはTACEによる低下はみられず、局所治療の介入によって肝予備能は悪化しなかったという。PET検査陽性患者は7例中全例で根治し、うち4例が薬物治療を終了しても再発がない状態だったとしている。
これらのことから、切除不能かつTACE不適の中期肝がんにおいて、アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法先行投与による根治率は35%であり、現時点で薬物治療を終了しても再発のない治癒した症例は23%だった。したがって、同研究成果を元に、肝外転移もなく、遠隔転移もない中期肝がんにおいて薬物治療は(効果があった場合も)あえて継続せず、TACEやラジオ波や切除を用いることで、再発しない治癒の達成を治療目標とすべきであると結論付けられた。
ABCコンバージョン治療が中期進行肝がんの世界的な標準治療法となることに期待
今回の研究により、アテゾリズマブとベバシズマブを用いて腫瘍が縮小した症例は、切除などで根治させることができ、また、縮小しなかった場合もTACEを複合免疫療法と併用することで、TACEで狙ったがんのみならず、その他の部位に存在するがんも治癒に導けることが証明された。これらの結果から新規治療法が、将来的に中期進行肝がん患者に対する世界的な標準治療法になることが期待される。
「今回開発した方法は従来の常識を覆すものであり、現在、この概念検証試験の良好な結果を踏まえ、医師主導無作為化比較第3相臨床試験が、全国200施設で今夏より開始予定となっている。同臨床試験が成功すれば、開発したABCコンバージョン治療が、中期の肝がんに対する世界の標準治療になると確信している」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・近畿大学 プレスリリース