脳の左右非対称化の仕組みは?構造がシンプルなショウジョウバエ脳で研究
大阪大学は4月12日、脳の左右非対称性が神経突起の刈り込みによって起こることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院理学研究科の特任研究員の阪村颯博士、松野健治教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載されている。
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多くの動物の脳は、左右非対称であることが知られている。例えば、ヒトの脳の構造と機能は左右非対称性を示し、その異常は精神疾患の原因であることがわかっている。また、脊椎動物や昆虫などにおいても、脳の左右非対称性が認知機能や記憶に必要なことが知られている。しかし、脳の構造は複雑であるため、その左右非対称化の仕組みはよく理解されていない。
今回、研究グループは、構造がシンプルなショウジョウバエの脳の左右非対称性に着目し、研究を進めた。
「左右対称に形成」「左脳神経突起の刈り込み」の2段階で非対称化
今回の研究では、単一の神経細胞レベルの精度で解析する方法により、脳の左半球だけで神経突起が刈り込まれる(断片化されて分解される)ことで脳が左右非対称化することが明らかになった。つまり、脳の左右非対称化は、2段階を経て進むことがわかった。第1段階で脳は左右対称に形成され、第2段階で左脳にある神経突起が刈り込みを受ける。このような2段階の仕組みは、脊椎動物にも見られることから、動物で共通の仕組みであることがわかってきた。
エクジゾンが「左脳」での神経突起刈り込みを決定
また、研究グループは左脳で神経突起が刈り込まれる際に機能する仕組みを分子レベルで明らかにした。右脳ではなく、左脳で神経突起の刈り込みが起こることを決定しているのは、昆虫ホルモン(エクジソン)であることが判明。ショウジョウバエの脳の左右非対称性は、長期記憶に必要であることがわかっている。よって、同研究の成果は、脳の左右非対称と長期記憶の関係を解明する糸口になるとしている。
ヒトの精神疾患、神経突起の左右非対称な刈り込み異常が原因の一つである可能性
脳の左右非対称は、記憶、認知など、脳の高次機構に必要であることがわかっている。このため、ヒトでは、脳の左右非対称の異常が、精神疾患に関係する。同研究成果により、神経突起の左右非対称な刈り込みによって脳の左右非対称化が起こることが解明されたことから、ヒトの精神疾患の原因の一つが、神経突起の左右非対称な刈り込みの異常である可能性が考えられる。同研究成果を基礎として精神疾患に関する理解が進展することが期待される、と研究グループは述べている。
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