炎症の進展に従って増加する活性化ILC2、どのように除去されるかは不明
秋田大学は4月11日、慢性アレルギー炎症を制御する新規メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科微生物学講座の海老原敬教授、立松恵助教、高須賀俊介助教、渕向茜技術職員、山形建基博士課程大学院生、大学院医学系研究科耳鼻咽喉科・頭頚部外科学講座の山田武千代教授、山田俊樹医員、バイオサイエンス教育・研究サポートセンターの関信輔准教授、九州大学医学部生命科学科薬理学分野の久場敬司教授、理化学研究所生命医科学研究センター免疫遺伝子発現研究YCIラボの吉田英行リーダー、免疫転写制御研究チームの谷内一郎チームリーダー、Institute of Immunology, Hannover Medical School.のProf. Günter Bernhardt、筑波大学医学医療系免疫学研究室の渋谷和子教授、渋谷彰教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Experimental Medicine」に掲載されている。
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喘息、アトピー性皮膚炎、好酸球性副鼻腔炎などの慢性アレルギーは、2型自然リンパ球(ILC2)から産生される過剰な炎症性液性物質(サイトカイン)により悪化する。ILC2は気道や皮膚といったアレルギーを起こしやすい場所に多く局在し、2型サイトカイン(IL-5やIL-13など)を産生することにより好酸球性のアレルギー炎症を誘導する。ILC2は慢性アレルギー炎症の進展に従って、その数が増加していくが、体内で過剰に活性化したILC2がどのように除去されているのか不明だった。
過剰に活性化したILC2で抑制性膜分子TIGITが発現、細胞死が誘導される
研究グループは、気道アレルギー炎症で活性化したILC2を調べ、過剰に活性化したILC2が抑制性膜分子であるTIGITを発現し、「疲弊様」になることを見出していたが、TIGITを発現したILC2の生理的意義は不明だった。今回、TIGITを発現したILC2を発見・追跡するために、薬剤(タモキシフェン)投与によりTIGIT発現細胞に赤色発光を誘導し、一度誘導されると死ぬまで赤色を発色し続けるマウスを作製した。そして、このマウスに喘息(慢性気道アレルギー)を発症させ、赤いILC2の挙動や性質を調べた。結果、1)TIGIT陽性ILC2は、非常に活性化したILC2であり、慢性アレルギーの間、常に誘導されていること、2)生体内ですぐに細胞死を迎えること、3)ILC2の近くにいるマクロファージ(食細胞)がTIGITのリガンドであるCD155を発現し、TIGIT陽性ILC2に細胞死を誘導すること、4)TIGIT陽性ILC2の細胞死を阻害すると、慢性気道アレルギー炎症が増悪すること、を明らかにした。以上より、過剰に活性化したILC2が生体から除去されることは、過剰な炎症を抑制するための大事な生体防御システムであることがわかった。
活性化したILC2は非常によく増える細胞であり、今までILC2が活性化により細胞死を迎えることは想定されていなかった。よって、この細胞死をILC2の活性化による細胞死(Activation-induced cell death:AICD)と名付けた。
ILC2にAICDを誘導する抗体医薬、新しい治療となりうる
今回の研究により、慢性アレルギー炎症を抑制するための新しい制御機構が明らかになった。ILC2は組織に常在し、サイトカインを産生し続けることで慢性アレルギー炎症を誘導する。現在のアレルギー関連の抗体医薬は、そのサイトカインや受容体をターゲットにしているため、炎症細胞の数をコントロールする治療薬が望まれている。慢性アレルギー患者のILC2にAICDを誘導する抗体医薬を開発できれば、新しい治療戦略となる。
「今後は慢性アレルギー患者の検体を用いて、TIGIT陽性ILC2の存在を明らかにしていく予定である。ILC2のAICD現象がヒトの慢性アレルギー炎症において、どのような機能を果たしているのか明らかにしていく」と、研究グループは述べている。
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