思春期の精神病様体験、一過性か持続するのか早期に評価可能なバイオマーカーが必要
東京都医学総合研究所は3月11日、思春期児童を対象にした出生コホート研究で、尿中エキソソーム含有miRNAが精神病様体験(Psychotic-like experiences:PLEs)の持続を予測することを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所統合失調症プロジェクトの富田康文連携大学院生、鈴木一浩協力研究員、新井誠プロジェクトリーダー、社会健康医学研究センターの宮下光弘副参事研究員、山﨑修道副参事研究員、西田淳志センター長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Schizophrenia」にオンライン掲載されている。
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思春期の6人に1人がPLEsを経験するが、ほとんどは成長とともに無くなることが報告されている。一方で、思春期後半になってもPLEsが持続する場合にはその後に精神疾患を発症する可能性が高いことが知られている。したがって、思春期においてPLEsが、一過性で無くなるのか、その後も持続するのかをより早い段階で予測することが重要であると考えられる。しかしながら、そのようなバイオマーカーを探索する研究がこれまで十分になされていなかった。
345名の思春期児童を対象に、13歳時と1年後のPLEsの有無や程度を評価
研究グループは、東京ティーンコホートと連携し、345名の思春期児童を対象に、研究開始時(13歳時)とその1年後(14歳時)の2時点で、アンケートによる調査と精神科医による面接を行い、PLEsの有無や程度を評価した。研究開始時には尿検体も提供してもらった。345名の児童のうち、2時点ともPLEsの評価ができた児童は282名だった。そのうち、PLEsが研究開始時にはあったが1年後には無くなった児童(PLEs消退群)は62名、研究開始時から1年後まで持続した児童(PLEs持続群)は15名だった。
6種類の尿中エキソソーム含有miRNA発現量、1年後のPLEs持続を高い精度で予測
次に、PLEs持続群15名と年齢・性別を合わせたPLEs消退群15名において、研究開始時の尿中エキソソーム含有miRNAの発現量を比較した。その結果、PLEs持続群では6種類(hsa-miR-486-5p、hsa-miR-199a-3p、hsa-miR-144-5p、hsa-miR-451a、hsa-miR-143-3p、hsa-miR-142-3p)のmiRNA発現量が有意に低いことがわかった。さらに、その6種類のmiRNA発現量を用いて1年後もPLEsが持続するかどうかについて検討したところ、PLEs持続群を高い精度で予測できた。以上のことから、尿中エキソソームが精神病の発症リスクの高さを予測できる可能性が示された。
痛みを伴わない検体採取が可能、早い段階からの適切な支援にもつながる
思春期にPLEsが持続する場合には、早い段階からの適切な支援が大切であるが、これまでそのような状態を予測することは容易ではなかった。今回の研究で用いた尿検体は、痛みを伴わずに採取できるため、被験者にとって受け入れやすい検査だと考えられる。また、尿中エキソソームを用いることにより、精神病を発症するリスクの高さを早期に発見できる可能性がわかった。「将来、6種類のmiRNAの機能を詳細に検討することによって精神病の発症メカニズムの一端が明らかとなり、より適切な支援や予防に役立つ情報を得ることができるかもしれない」と、研究グループは述べている。
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