進行した慢性腎臓病では免疫力が慢性的に低下、十分な中和抗体を獲得しにくい
横浜市立大学は4月11日、新型コロナウイルス感染歴のない血液透析患者238人と医療スタッフ58人において、BNT162b2(ファイザー社の従来株型の新型コロナウイルスmRNAワクチン)2回目接種1か月後から4回目接種1か月後までの間に測定された抗スパイクタンパク質抗体の力価を比較検討した結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科循環器・腎臓・高血圧内科学の金井大輔医師、花岡正哲医師、涌井広道准教授、田村功一主任教授、同大附属病院次世代臨床研究センター(Y-NEXT)の土師達也助教、篠田覚助教、感染制御部の加藤英明部長ら、医療法人社団厚済会の大西俊正博士、三橋洋医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical and Experimental Nephrology」に掲載されている。
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新型コロナウイルスmRNAワクチンはCOVID-19の重症化率を低下させ、死亡率を減少させる効果があると報告されてきた。進行した慢性腎臓病をもっている人、特に血液透析を受けている人は、COVID-19の重症化や死亡の危険性が高いことが問題とされ、ワクチンを積極的に接種することで、重症化率や死亡率が低下すると報告されている。日本でも、血液透析を受けている人に対してワクチン接種が強く推奨されてきたが、進行した慢性腎臓病をもつ人は尿毒素の影響で免疫力が慢性的に低下しており、ワクチンに対する反応が弱いため十分な中和抗体を獲得しにくいとされていた。
4回目ワクチン接種、血液透析患者の抗体価報告は東アジア以外の少症例数の研究のみ
研究グループは、先行研究により、2回のワクチン接種後に獲得できる抗体価(ピーク値)は、血液透析患者群では健常人(医療スタッフ群)と比べて3分の1程度と有意に低値であり(2,617 vs. 7,285 AU/ml, p < 0.001,)、ピーク抗体価の上昇に寄与する因子は栄養状態と貧血の改善、ビタミンDの補充であることや、3回目のワクチン接種によって、血液透析患者群では抗体価が大幅に上昇し、健常人と変わらない程度の抗体価を獲得できること(24,500 AU/mL vs. 20,000AU/mL)を報告してきた。従来株の生ウイルスによる細胞死を完全に抑制できる中和抗体価と抗スパイクタンパク抗体価の関係では、抗スパイクタンパク抗体価が997 BAU/mL(= 7,021 AU/ml)以上で中和抗体価と正の相関を認めるとされ、血液透析患者においてもワクチンの3回目接種による感染予防効果が期待される。
2022年の年始からオミクロン株の台頭により国内で新規感染者が爆発的に増加(第6波が到来)したため、4回目のワクチン接種を積極的に進める政策が取られた。海外の報告では、4回目の新型コロナmRNAワクチン接種を受けた健康な人の抗体価は3回目接種後と比べて軽度の上昇に留まるとされた。しかし、血液透析患者の抗体価に関する報告は症例数が少ない研究に限られており、また東アジア圏内からの報告はない。
感染歴なし患者群238人・医療スタッフ58人、従来株ワクチン4回目接種前後の抗体価を検討
そこで、今回、日本人の血液透析患者群と医療スタッフ群を対象に、新型コロナmRNAワクチン(従来株型)4回目接種前後における抗スパイクタンパク抗体価を検討した。
今回の研究では、新型コロナウイルスに対するファイザー社製mRNAワクチン(従来株型)の接種を受けた日本人血液透析患者群と医療スタッフ群を対象として、ワクチン接種後に獲得された抗スパイクタンパク抗体の力価の経時的な推移を後方視的に調べた。医療社団法人厚済会では、関連透析施設(上大岡仁正クリニック、文庫じんクリニック、金沢クリニック、追浜仁正クリニック)に通院している血液透析患者と勤務している医療スタッフの中で、2回目のワクチン接種を完了し抗スパイクタンパク抗体検査を希望した者に対して、無料で(抗体検査費用の全額を医療社団法人厚済会が負担)抗体検査が提供されていた。結果は各被検者に通知され、診療録等に記録されていた。3・4回目のワクチン接種後も希望者に対しては継続して検査の機会を設けており、同研究では、保管されていた情報を診療録等から収集。新型コロナウイルス感染歴のない血液透析患者群238人、コントロール群58人のデータを解析した。
4回目接種、3回目抗体価より患者群で約1.5倍、医療スタッフ群で等倍の上昇幅に留まる
4回目のワクチン接種1か月後の抗体価は、3回目接種1か月後のピーク抗体価と比較して、血液透析患者群で約1.5倍の上昇(2万4,000→3万7,000 AU/ml)、医療スタッフ群ではほぼ等倍(1万7,500→1万8,500 AU/ml)の変化に留まった。また、背景として4回目のワクチン接種直前の抗体価と接種後の抗体価には負の相関関係(接種前の抗体価が高いとワクチン接種後に抗体価の上昇幅が小さく、接種前の抗体価が低いと、接種後の上昇幅が大きくなること)を認めた。これらの結果から、従来株型の新型コロナウイルスmRNAワクチンの場合、接種を繰り返すことでワクチンに対する液性免疫応答が有意に鈍化することが示唆された。
抗体価の減衰速度は、両群共に2回目より3回目接種後が有意に低値
また、抗体価の減衰速度に関しては、2回目接種1か月後から3回目接種直前までの減衰速度に比べて、3回目接種1か月後から4回目接種直前までの減衰速度は両群共に有意に低下していた(血液透析患者群:-0.409 vs. -0.262 log(AU/ml), p < 0.001,医療スタッフ群:-0.457 vs. -0.277 log(AU/ml), p < 0.001)。つまり、ワクチン接種を繰り返すと、それにより獲得された抗体価は低下しにくくなり、臨床的に有効な抗体力価(血中抗体濃度)を維持するための追加接種の間隔(期間)を延長できる可能性が示された。ただし、臨床的に有効とされる抗体力価が一定である場合を想定している。
オミクロン株(BA.4/5)流行下、オミクロン株対応ワクチンの接種を
血液透析患者は健康な人に比べて、ワクチンに対する免疫反応性が低く獲得できる抗体価が低いと考えられていた。しかし、今回の研究により、ワクチン3回接種で抗体価が平均で10倍上昇し健常人と同レベルに達することがわかった。一方、4回目の接種において抗体価はわずかな上昇に留まり、液性免疫反応の鈍化が明らかになった。2022年10月ではオミクロン株BA.4/5が蔓延している。従来株型のmRNAワクチンで得られた抗スパイクタンパク抗体で従来株ウイルスを中和し感染予防効果を得るには7,021AU/mL以上の力価が必要とされているが、BA.4/5株に対してはその11倍以上の抗体価を要するとされている。
今回の研究結果から、従来株型のワクチン接種では、そのような高い抗体価を獲得・維持することは現実的に困難であるとわかった。よって、オミクロン株(BA.4/5)の流行下では、オミクロン株対応ワクチンの接種を進めることが好ましいと考えられる。国内ではオミクロン株対応ワクチンの接種は2022年9月以降に開始された。血液透析患者を対象としたオミクロン株対応ワクチンの有効性について、国内外からの知見の集積が待たれる、と研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース