年齢・時代・世代の影響に分けて評価する解析法で、生まれ年と透析導入率の関連を検討
新潟大学は4月7日、透析導入率が高い世代は、男性1940~60年代、女性1930~40年代生まれであることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科臓器連関学講座の若杉三奈子特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「「Clinical and Experimental Nephrology」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
日本国内における透析患者数は人口100万人あたり2,749人と、台湾(3,772人)、韓国(2,789人)に次いで世界で3番目に多い(2020年時点)。また、日本の透析導入率は近年低下傾向にあるものの、まだ世界で6番目に高く、人口高齢化の影響によりさらなる増加が危惧されている。慢性腎臓病(chronic kidney disease, CKD)の重症化予防を徹底し、新規透析導入患者数の減少を図るため、透析導入率の経年変化を詳細に検討することで、より効果的な対策につながることが期待される。
透析導入率の経年変化については、これまで年齢の影響(高齢になるほど、透析導入率が高まる)や、時代の影響(以前は上昇していた透析導入率は、近年、横ばい〜低下)については検討されていたが、生まれた年(世代)の影響は検討されていなかった。世代が異なれば生まれ育った環境が異なり、年齢や時代による変化以外の影響を受ける可能性がある。
そこで研究グループは今回、年齢・時代・世代の影響に分けて評価するAPC分析を用いて、日本の一般住民に占める透析導入率の40年間にわたる経年変化を、男女別に検討した。
20~84歳の一般住民を対象に、男女別・年齢階級別に透析導入率を算出
研究では、1982〜2021年の日本透析医学会と国勢調査のデータを使用し、解析対象は20~84歳までとした。分子となる各年の男女別・年齢階級別透析導入患者数は日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」から、分母となる一般住民の男女別・年齢階級別人数はe-Stat(政府統計の総合窓口)から、それぞれ公表されている数字を用いた。
年齢は5歳階級別(20~24歳、25~29歳、…、80~84歳)に、時代は5年ごと(1982~86年、1987~91年、…、2017~2021年)とし、その結果、5年ごとの世代(出生コホート)が20個作成された(1902~06年、1907~11年、…、1997~2001年生まれ)。
男女別・年齢階級別に、分母を一般住民とした透析導入率を計算した。APC分析は、米国がん研究所(National Cancer Institute)が公開しているWebツールを用いた。
男性1940~60年代頃、女性1930~40年代頃がピーク、その後は低下傾向
年齢階級別に透析導入率をグラフ化した結果、男女とも、同じ年齢階級でも出生年によって、透析導入率が異なることが明らかになった。具体的には、1900年初め頃に生まれた人よりも1930年頃に生まれた人の方が同じ年齢階級でも透析導入率は高い一方、1960年頃に生まれた人よりも近年に生まれた人の方が同じ年齢階級でも、年齢階級別透析導入率が低い傾向が認められた。
年齢や時代の影響を調整し、1947~1951年生まれを1として比較した各世代の透析導入率比は、男女とも山型を示していた。つまり、男女とも1900年代初めから透析導入率比は上昇し、男性は1940~60年代頃、女性は1930~40年代頃でピークとなり、その後は低下傾向を示していた。最も高い透析導入率比を示したのは、男性は1967~71年生まれ(透析導入率比1.14、95%信頼区間1.04-1.25)、女性は1937~41年生まれ(透析導入率比1.04、95%信頼区間0.98-1.10)だった。
2023年時点で52~56歳の男性で、積極的な腎臓検診の受診勧奨が必要となる可能性
今回の研究により、加齢や時代による影響とは別に、男性は1940~60年代頃、女性は1930~40年代頃に生まれた人で透析導入率が高く、その後は低下傾向にあることが明らかにされた。
特に男性で1967~71年生まれで最も高い透析導入率を示したことは、注目すべき所見だとしている。1967~71年生まれは52~56歳(2023年時点)に相当し、働き盛りの年代だ。これらの世代で透析導入率が高いことから、積極的な腎臓検診の受診勧奨が必要となる可能性がある。これまで日本の透析導入率について、生まれた年(世代)に着目した研究はなく、新たな知見と言える。
透析導入率が高い世代、台湾の研究と同様の結果に
一方、今回明らかになった世代で透析導入率が高い理由は、同研究では明らかにされていない。研究グループは「1930~50年頃に生まれた人では、第二次世界大戦および戦後の食糧難が影響したかもしれない。妊娠中の母親の栄養状態が悪いと低出生体重児となる危険性が高まる。低出生体重児は高血圧症、糖尿病、心血管病、CKDなどの病気に、将来なりやすいことが報告されている。そのため、母親の栄養状態が悪い時代に生まれた人では、大人になってこれらの疾患になりやすく、透析導入率が高くなった可能性が考えられる。同じ解析方法を用いた台湾の研究でも同様に1943~47年生まれで透析導入率が最も高く、第二次世界大戦の影響が示唆されていることは、この仮説を支持する。しかし、この仮説では1960年代生まれの男性で透析導入率が高い理由にはならないと思われるため、他の理由も考えられる」と、分析している。
▼関連リンク
・新潟大学 プレスリリース