静脈を動脈の代用として下肢切断を回避
米ペンシルベニア州ハーミテージ市のCynthia Elfordさん(63歳)は、1型糖尿病が原因で左脚を失った。日焼けした足の親指がその後黒っぽく変色し、切断を余儀なくされたのだ。そして彼女は、右脚も同じ状態になりつつあると言われていた。
画像提供HealthDay
手足に血液を送る動脈が狭くなる末梢動脈疾患(PAD)があると、下肢の切断を要する状態になりやすい。治癒を促す血流があまりにも少ないと、小さな傷などでも壊死してしまうことがあるためだ。しかし、侵襲性が極めて低い”LimFlow”と呼ばれるシステムを用いた実験段階の治療法のおかげで、Elfordさんは今のところ右脚を切断することなく過ごしている。この治療法は、虚血状態にある脚に新鮮な血液を送るために、静脈を動脈にかえるというものだ。LimFlowの安全性と有効性について調べる目的で実施された臨床研究では、治療を受けた患者の76%が下肢切断を回避できたという。この結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」3月30日号に発表された。
ElfordさんがLimFlowによる治療を受けたのは2018年4月だった。その5年後、彼女の右脚は治癒し、痛みが消失した。Elfordさんの主治医で研究を主導した米ユニバーシティ・ホスピタルズ・ハリントン心臓血管研究所のMehdi Shishehbor氏は、「研究参加者は、もしこの研究に参加していなければ、膝下、あるいは膝上から脚を切断しなくてはならなかっただろう。彼らの脚を残せたのは、私にとっても喜びだ」と話す。
LimFlowでは、まず、閉塞した動脈と、新たな動脈として使う近くの静脈に1本ずつカテーテルを挿入する。次に、これらのカテーテルを使って、ステントグラフトで動脈と静脈をつなげて、静脈を動脈の代わりとなる血管にする。治療は鎮静下で行われるが全身麻酔は不要で、翌日には帰宅できるという。
Shishehbor氏らは今回、治療選択肢のない(ノーオプション)包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)の患者105人(平均年齢70歳)を米国内の20施設で試験に登録し、LimFlowによる治療を実施した。その結果、104人で静脈の経カテーテル動脈化に成功し、治療6カ月後の時点での切断回避生存率は66.1%と推定された。また、6カ月後の時点で足関節より上での切断を回避できた患者は67人(Kaplan-Meier解析で76.0%と推定)であり、傷が完全に治癒した患者の割合は25%(16/63人)、傷が治癒の過程にあることが確認された患者の割合は51%(32/63人)であった。
さらに、一部の患者では血流が回復したことにより、新たな毛細血管や小さな動脈が作られていることが確認され、これにはShishehbor氏らも驚かされたという。一方、副作用に関しては、体液の貯留によってある程度のむくみが出ることが予想されていたが、動脈化した静脈以外の静脈のおかげで広範な体液の貯留は起こらなかったという。また、デバイス関連の有害事象の報告はなかった。
LimFlowによる治療は、ノーオプションのCLTI患者にとって、新たな希望となる治療法として期待されているとShishehbor氏は言う。「こうした患者では、残念ながら約20~30%の確率で重症化かつ石灰化が進んでいるため、バイパス術や血管内手術を施行しても効果が得られない」と同氏は説明する。
PAD以外のCLTIのリスク因子は、慢性腎臓病、高血圧、脂質異常症などだ。今回の研究の背景情報によると、米国での下肢切断件数は年間約18万5,000件に上る。Shishehbor氏は、「米国では毎日約500人の患者が脚を失っている」と言う。
ただし、この治療は痛みを伴う。Elfordさんは「医師たちから、治療後にひどい痛みが出ることは伝えられていた」と振り返る。そして、「実際、それは経験したことのないような痛さだった。乗り越えるのは簡単ではなかったが、脚のない人生を送るのと、ある程度の痛みを耐えて私が経験したような結果を得るのと、どちらが良いだろうか?」と語っている。
▼外部リンク
・Transcatheter Arterialization of Deep Veins in Chronic Limb-Threatening Ischemia
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写真:Cynthia Elfordさん
Photo Credit:University Hospitals