どのような種類の「身体知覚の異常」が、痛みの予後に及ぼすのか?
畿央大学は4月6日、筋骨格系疼痛患者を対象に感覚運動不一致を誘発させる実験タスクを実施し、それによって生じる「重だるさ」が筋骨格系疼痛患者の痛みを遷延化させることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院健康科学研究科 博士後期課程 松田総一郎氏と同大ニューロリハビリテーション研究センター 大住倫弘准教授の研究グループよるもの。研究成果は、「Pain Research and Management」に掲載されている。
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骨折や組織損傷直後のギプス固定が関節拘縮や筋力低下などの身体機能制限に加え、身体知覚の異常を引き起こすことが報告されている。このような異常な身体知覚は、臨床現場で患者から「自分の手とは思えない」「自分の手に違和感や不快感がある」など、さまざまな形で表現されている。このような異常な身体知覚は、運動の意図と感覚フィードバックの不一致に起因すると考えられている。
感覚運動の不一致とは、自分の運動の意図と感覚フィードバックが一致しないことを指し、異常な身体知覚が生じることが知られている。例えば、四肢の動きと視覚フィードバックの間の空間的な不一致によって、奇妙さや不快感、あるいは重さだるさなどが引き起こされることが報告されている。しかし、感覚運動の不一致による身体知覚の異常が痛みの予後に及ぼす影響についてはこれまで検討されていなかった。そこで研究グループは今回、急性期の筋骨格系疼痛患者を対象に、感覚運動不一致を誘発する実験タスクを用いて、どのような種類の異常な身体知覚が痛みの予後に関与しているのか検証した。
不一致条件によって生じやすい異常知覚は「痛み・重だるさ・奇妙さ」
まず、感覚運動の不一致を惹起するため、鏡を用いた実験を行った。実験では患者に椅子に座ってもらい、上肢または下肢の間に鏡を設置した。椅子に座った患者の上肢または下肢の間に鏡を置き、一致条件と不一致条件を実施した。一致条件は健側と患側を同時に屈伸運動させる条件、不一致条件は健側と患側で異なるタイミングで屈伸運動をさせる条件とし、各条件ともに20秒間実施した。
このとき、患者は鏡に写る健側の上下肢を見ることができたが、患側の上下肢を見ることができないように設定した。その状態で、鏡に写る健側の上下肢を見ながら健側と患側を同時に動かす一致条件と異なるタイミングで動かす不一致条件をそれぞれ20秒間実施した。各条件を実施した後に、異常知覚(痛み、不快感、奇妙さ、重だるさ、温度の変化、四肢が増えた感じ、四肢が無くなった感じ)に関するアンケートに回答してもらった。
外傷もしくは手術後2か月以内に1回目の実験を行い、その2週間後、4週間後の合計3回実施した。その結果、不一致条件によって生じやすい異常知覚は「痛み・重だるさ・奇妙さ」の3項目だった。
不一致条件で経験する「重だるさ」が2週間後と4週間後の痛みを予測
そこで、構造方程式モデリングを用いて、痛みの強さと異常知覚の関係を検討した。その結果、初期の痛みの強さは予後に関係しなかったが、不一致条件で経験する「重だるさ」という異常知覚が2週間後と4週間後の痛みを予測することが明らかとなった。これは、異常な身体知覚の中でも重だるさという経験が痛みに影響を与えることを示唆している。
以上より、急性疼痛の重症度そのものは痛みの遷延化を予測できなかったが、感覚運動の不一致によって生じる重だるさが、痛みを遷延化させやすいことが明らかとなった。
より詳細な評価を行い、感覚運動の不一致で生じる異常知覚の影響を検証することが必要
今回の研究により、急性期の筋骨格系疼痛患者の痛みの遷延化に、感覚運動の不一致によって経験する重だるさが関わることが明らかにされた。
「今後は筋骨格系疼痛患者の運動機能も含めて、より詳細な評価を行い、感覚運動の不一致によって生じる異常知覚の影響を検証する必要がある」と、研究グループは述べている。
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