患者から分離のBA.2.75株、モデル動物で増殖能と病原性をデルタ株やBA.2株、BA.5株と比較
東京大学医科学研究所は3月30日、患者検体から分離された新型コロナウイルス・オミクロン変異株「BA.2.75株」のハムスターにおける増殖能と病原性がデルタ株と比べると低いものの、BA.2株やBA.5株よりも高いことを、COVID-19動物モデルを用いて明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
2022年夏頃、世界ではオミクロン株のBA.5系統が流行していたが、インドやネパールなどの一部の国ではオミクロン株のBA.2.系統から派生したBA.2.75系統がBA.5系統に変わり流行した。現在、BA.2.75系統そのものの流行は収束しているが、BA.2.75系統から派生したXBF系統、BN.1系統やCH.1系統などが出現し、感染例が数多く報告されている。
研究グループは今回、COVID-19感染モデル動物のハムスターを用いて、患者から分離したBA.2.75株の増殖能と病原性をデルタ株やBA.2株、BA.5株と比較した。
BA.2.75株感染ハムスター、体重減少・呼吸器症状の悪化はないが肺炎を観察
初めに、BA.2.75株の3株をハムスターに感染させたところ、BA.2株やBA.5株と同様に、全ての株において感染ハムスターは体重減少を示さなかった。一方、デルタ株を感染させたハムスターは全ての個体で体重が減少していた。また、BA.2.75株を感染させたハムスターでは、呼吸器症状の悪化もほとんど認められなかったという。
一方、ハムスターの肺や鼻におけるBA.2.75株の増殖能は、デルタ株と比べると低いものの、BA.2株やBA.5株よりも高いことが明らかとなった。さらに、感染動物肺の病理解析を行ったところ、BA.2.75株感染ハムスターでは、炎症の程度はデルタ株よりは低いものの、BA.5株感染ハムスターでは見られなかったウイルス性肺炎像が観察されたという。
呼吸器での増殖性は、BA.5株に比べBA.2.75株で「高」
続いて、BA.5株とBA.2.75株を同時に同じ個体に感染させ、どちらの株がハムスターの呼吸器でより増えやすいのか競合試験を行った。その結果、呼吸器での増殖性はBA.5株よりもBA.2.75株の方が高いことが明らかとなった。
BA.2.75派生系統のリスク評価などに役立つ知見
今回、患者から分離した複数のBA.2.75株のハムスターにおける増殖能と病原性がデルタ株と比べると低いものの、BA.2株やBA.5株よりも高いことがCOVID-19動物モデルを用いた研究により明らかにされた。
「現在、BA.2.75系統は流行していないが、BA.2.75系統から派生したXBF系統、BN.1系統やCH.1系統などが発生・流行しており、本研究を通して得られた成果は、これらBA.2.75系統から派生した系統のリスク評価など、行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定・実施する上で、重要な情報となる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京大学医科学研究所 プレスリリース