間質性肺疾患が時に急速進行性で、急性期死亡率が高い抗MDA5抗体陽性例
東京医科歯科大学は4月3日、抗MDA5抗体陽性の皮膚筋炎関連間質性肺疾患の疾患マーカーとなり得る分子として、白血病阻止因子LIFを新規に見出したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の沖山奈緒子教授、市村裕輝非常勤講師の研究グループと、河北総合病院、筑波大学との共同研究によるもの。研究成果は、「Rheumatology」オンライン版に掲載されている。
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膠原病の一つである皮膚筋炎は、炎症性筋疾患の一つでもあり、特有の皮膚症状と、近位筋優位の筋炎によって診断されるが、間質性肺疾患を合併することも多く、患者の生命予後を左右する。また、皮膚筋炎では近年、複数の筋炎特異的自己抗体が同定され、その抗体ごとに特徴的な臨床像を呈し、サブグループ化されることが指摘されている。そのため日本では、筋炎特異的自己抗体のうち、(抗Jo-1抗体を含む)抗ARS抗体、抗MDA5抗体、抗Mi2β抗体、抗TIF1γ抗体については、その測定検査が保険収載されており、日常診療で測定できる環境が整えられている。
そのうち、抗MDA5抗体陽性の皮膚筋炎は、日本を含む東アジアに患者が多く、血管傷害の強い特徴的な皮膚症状を呈し、筋炎はないか軽度であるものの、間質性肺疾患が時に急速進行性であり、死亡率の高い疾患グループとされている。治療は、高用量ステロイドや、タクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬、シクロフォスファミド点滴静注療法といった複数の免疫抑制剤を併用した集学的治療が行われている。その急性期死亡率の高さも相まって、病態解明は十分進んでいないものの、血液検体解析では、I型インターフェロン(IFNα/β)やインターロイキン(IL)-1β、IL-6、IL-8などの炎症性サイトカインの病態への関与が示唆されている。ただし、実際の肺組織でのこれらのサイトカインの発現上昇があるのか、またMDA5に対する自己免疫が病態に関与するかどうかなどは未解析のままだった。
現在までに、国内外で抗MDA5抗体陽性の皮膚筋炎関連間質性肺疾患症例の剖検肺の病理学的解析は17例ほど報告があり、そのほとんどが、びまん性肺胞傷害というタイプの病理組織像を呈したとされている。
患者肺組織のトランスクリプトーム解析、白血病阻止因子LIFの発現亢進を新規に同定
今回研究グループは、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺疾患で死亡した患者の剖検により得られた肺組織を用いて、トランスクリプトーム解析を行った。この剖検肺では、やはり、びまん性肺胞傷害の病理組織像を呈していた。対照として、年齢・性別が合致し、肺がんで死亡した患者の正常肺組織部分を用いた。
トランスクリプトーム解析では、対照群と比べて高発現していた遺伝子が395個、発現低下していた遺伝子が124個同定された。さらに、遺伝子オントロジーエンリッチメント解析において、抗原提示関連遺伝子の顕著な高発現が特徴的であることがわかった。また、タンパク質相互作用ネットワーク解析では、抗原提示関連遺伝子である主要組織適合性複合体(MHC)クラスII関連の遺伝子クラスターが同定され、これはMHCクラスIIを介して抗原提示を受けるCD4陽性ヘルパーT細胞が病態に関与することをうかがわせる結果であった。肺組織傷害を反映して、肺サーファクタント物質・細胞骨格に関与する因子や、コラーゲン関連遺伝子のクラスターも認められ、かつサイトカイン・ケモカインのクラスターも認めた。サイトカインでは、血液検体解析で発現亢進が示唆されてきた、IL-1β、IL-6、IL-8に加え、IL-6スーパーファミリーの一つである白血病阻止因子LIFの発現亢進が新規に同定された。
抗MDA5抗体陽性患者で血清LIF値の上昇を確認、抗ARS抗体陽性例では認めず
研究グループは、このLIFに着目し、2015年4月~2019年3月の間に、自施設で診断した、間質性肺疾患を合併していた抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎12症例と抗ARS抗体陽性皮膚筋炎12例、さらに間質性肺疾患を合併していなかった皮膚筋炎(DM)10例の治療前血清検体と、健常人ボランティア12例の血清検体を用いて、ELISAにて血清LIF値を測定した。そこで、血清LIF値は抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺疾患症例にて有意に上昇しており、これは健常人や間質性肺疾患非合併皮膚筋炎症例のみならず、間質性肺疾患を合併している抗ARS抗体陽性症例でも見られなかった所見だった。これらのことから、LIFの発現上昇は、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺疾患特有の疾患マーカーであることが示唆された。
抗MDA5抗体陽性例、急性増悪がなくても呼吸窮迫症候群と同様の病態が潜在的に存在
LIFはIL-6スーパーファミリーに属するサイトカインで、受容体であるgap130/LIFRβを介し、ヤヌスキナーゼ(JAK)-シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)系などのシグナル経路を活性化し、C反応性因子(CRP)などの急性期タンパク質を誘導するとされている。肺では平滑筋細胞が主な産生細胞であり、さまざまな原因で急性呼吸不全に陥る状態の総称である呼吸窮迫症候群の症例の気管支肺胞洗浄液中での上昇が指摘されている。つまり、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺疾患では、他の皮膚筋炎関連間質性肺疾患と比べて、急性増悪を来していなくても、呼吸窮迫症候群と同様の病態が潜在的に存在していることが示唆される。
「研究結果は、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺疾患の病態解明の一助となるとともに、近年、本疾患への治療薬として報告されつつあるJAK阻害薬の有用性を理論的に裏付ける所見でもあり、かつ、疾患マーカー、特に治療方針決定に寄与する重症度判定因子や治療反応性モニター因子としての有用性の検討へ発展していくことが期待される」と、研究グループは述べている。
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