がん組織は正常組織よりコレステロールが多いが、口腔がん細胞での役割は?
新潟大学は4月3日、がん細胞中に含まれるコレステロールの量が増加すると口腔がんの進展を引き起こすことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科のNyein Nyein Chan大学院生、同研究科口腔病理学分野の山﨑学准教授、田沼順一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」にオンライン掲載されている。
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コレステロールは生体の維持に必須の物質で、細胞膜の主要構成成分であるとともに、ステロイドホルモンなどを合成するための原料となる。コレステロールは食事から摂取するだけでなく、細胞の中でも作られている。血中コレステロールが高い状態が持続すると、動脈硬化症をはじめとする疾患のリスク上昇につながる。これまでの研究から、正常組織に比べて、がん組織には多くのコレステロールが含まれていることが示されてきたが、口腔がん細胞におけるコレステロールの役割については十分にわかっていなかった。
細胞内コレステロール増で、がん細胞は非対称形態・高い運動性
研究グループは、口腔がんの培養細胞に対して細胞内コレステロールを人為的に増減させ、細胞の挙動を観察した。すると、コレステロールを減少させた細胞は縮小し、運動性が低下。一方、コレステロールを増加させた細胞は細胞突起を伸ばして非対称的な形態に変化し、高い運動性を示した。これにより、コレステロール増加により細胞の非対称性がもたらされ、細胞運動能が上昇したことが示唆された。
カベオリン1高発現の病変、術後の再発またはリンパ節転移率「高」
さらに、コレステロール結合タンパク質として知られているカベオリン1の存在部位を調べたところ、コレステロール添加細胞では、カベオリン1が細胞の片側の細胞膜上にまとまって存在することがわかった。
口腔がん病理組織でコレステロール量を測定することは技術的に不可能なため、カベオリン1の発現状態を検討。その結果、口腔がん細胞の細胞膜にカベオリン1が多く発現されていた病変ほど、手術後の再発またはリンパ節転移率が高いという関連性を見出した。
がん細胞内コレステロール標的の新規治療法開発に期待
今回の研究成果により、口腔がん細胞において過剰なコレステロールがカベオリン1の局在を制御することで、細胞運動能が上昇し、がんの進展を加速させる可能性が示された。脂質異常症の治療には、血中コレステロールを下げる薬剤が広く使用されている。今後、このような薬剤が口腔がんの発生・進展に関係するのかを解明することで、コレステロールを標的とした新規治療法開発につなげていきたいと考えている、と研究グループは述べている。
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