医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 先天性免疫異常症、マルチオミックス解析で遺伝子診断効率が向上-広島大ほか

先天性免疫異常症、マルチオミックス解析で遺伝子診断効率が向上-広島大ほか

読了時間:約 3分8秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年04月04日 AM10:45

IEIの遺伝子診断効率は30~40%、マルチオミックス解析で向上できるか?

広島大学は3月31日、プロテオミクスとターゲットRNAシーケンスのマルチオミックス解析を用いて、先天性免疫異常症(IEI)患者における遺伝子診断効率を向上させることに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科小児科学の岡田賢教授、佐倉文祥同大学院生らの研究グループと、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科発生発達病態学分野 寄附講座の金兼弘和教授らの研究グループ、京都大学大学院医学研究科小児科学の八角高裕准教授らの研究グループ、岐阜大学大学院医学研究科小児科学の大西秀典教授らの研究グループ、防衛医科大学校小児科学の野々山恵章名誉教授、同・今井耕輔教授らの研究グループ、かずさDNA研究所の小原收副所長らの研究グループによるもの。研究成果は、「PNAS Nexus」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

IEIは、遺伝子の病的変異により免疫不全症、、悪性疾患など、さまざまな症状を呈する疾患。次世代シークエンス技術の躍進により、これまでに480を超える遺伝子がIEIの原因遺伝子として同定されている。IEIの遺伝子診断は、疾患の予後予測や根本的治療法提供のために必要で、IEI患者のQOLに大きく関わる。しかし、遺伝子パネル検査や全エクソーム解析など現在広く行われている遺伝子検査の診断効率は30〜40%であり、遺伝子診断効率の向上は現在の課題だ。

遺伝子はヒトの体を作る設計図に相当するもので、DNAがmRNAへ転写され、mRNAがタンパクへ翻訳されることで初めて生体内での機能を獲得する。多くの疾患はタンパクの機能異常によって発症するため、遺伝子の異常を調べる遺伝子検査だけでは発症原因が見逃されてしまう症例が存在する。このことが、遺伝子検査の診断効率が低くなる主な原因だ。近年、mRNAを解析するRNAシーケンス(RNA-seq)や、タンパクを解析するプロテオミクスがさまざまな研究分野で注目されている。これらの研究は、設計図であるDNAの異常がmRNAやタンパクに及ぼす影響を直接調べることが可能で、遺伝子検査だけでは得られない疾患に関する情報を知ることができる。IEIの分野でも、疾患の病態理解や遺伝子診断におけるRNA-seqの有用性が知られている。しかし、プロテオミクスはさらに新しい分野で、IEIの遺伝子診断に用いた研究はほとんどない。RNA-seqとプロテオミクスを同時に行う「マルチオミックス解析」研究に関してはさらに少ないのが現状だ。

そこで研究グループは今回、従来の遺伝子検査で診断できなかったIEI患者の診断効率を向上させることを目的に、プロテオミクスとターゲットRNA-seqの統合解析を用いた研究に取り組んだ。

従来の遺伝子検査で診断不可能だった4人のIEI患者で原因遺伝子の同定に成功

まず、遺伝子パネル検査や全エクソーム解析で遺伝子診断できなかった70人のIEI患者を対象に、マルチオミックス解析を行った。

その結果、4人の患者で新たに原因遺伝子を同定することに成功した。これらの患者では、原因遺伝子由来のタンパク発現が著明に低下していたが、うち2人ではmRNAの発現は正常で、mRNAとタンパクの発現量に不一致が存在することを明らかになった。プロテオミクスとターゲットRNA-seqのデータを詳細に調べると、IEIに関連する遺伝子の約半数でmRNAとタンパクの発現量に不一致を認めた。このことにより、タンパクとmRNAを同時に調べるマルチオミックス解析の重要性が示された。

B/T細胞に発現の遺伝子群を解析することで、免疫細胞の機能障害も診断可能

さらに研究グループは、B細胞やT細胞などの免疫細胞に特異的に発現している遺伝子においてタンパクとmRNAの発現量に高い相関性があることに着目し、タンパク発現量解析で免疫細胞の障害を持つ患者を同定できるのではないかと考え、それを証明するために、B細胞やT細胞に特異的な遺伝子群の発現量に基づいてクラスタリング解析を実施した。

その結果、B細胞やT細胞に異常を来す疾患で、それぞれの細胞に特異的な遺伝子群の発現量が低下していることを見出した。このことから、IEIの病態の中心である免疫細胞の障害もマルチオミックス解析で診断できると判断した。

一連の結果から、マルチオミックス解析は従来の遺伝子検査で診断できなかったIEI患者における遺伝子診断効率の向上および、IEIの病態解明に貢献できることが示された。

マルチオミックス解析が、遺伝子検査を補完する技術として臨床応用されることに期待

今回の研究成果により、マルチオミックス解析がIEI患者の診断と病態解析に有用であることが示された。

「IEI患者の遺伝子診断は適切な治療法を選択するために必要不可欠で、遺伝子診断率の向上は患者のQOL向上に大きく貢献する。IEI患者に対するマルチオミックス解析は新しい研究分野だが、将来的には遺伝子検査を補完する新しい技術として臨床応用されることが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大