パーキンソン病においてαシヌクレインの異常な凝集が起こる原因は一部の患者を除き不明
大阪大学は3月28日、パーキンソン病(PD)患者にホスファチジルイノシトール3リン酸(PIP3)というリン脂質が蓄積することが、PDの原因と考えられてきたαシヌクレイン(αSyn)の異常な凝集体(レビー小体)の原因となることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の鐘其静特任研究員、池中建介助教、望月秀樹教授(神経内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Acta Neuropathologica」にオンライン掲載されている。
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これまで、PDの原因にαSynの凝集(レビー小体)が中心的な役割を果たしていることが広く知られていた。しかし、なぜαSynが凝集蓄積するのか十分にわかっていなかった。およそ1割程度の患者では、遺伝的に糖脂質のグルコシルセラミドが蓄積しやすい体質をもち、過剰なグルコシルセラミドがαSynと結合して凝集を起こすことが知られていたが、それ以外の9割の患者の原因は不明だった。しかし研究グループは、残りの患者たちのレビー小体にも、αSynの凝集と一緒に何らかの脂質が蓄積していることを、以前の研究で見出していた。そこで研究グループは、脂質がαSynの性質を変えて凝集させるという仮説を立てた。
αSynと結合する脂質PIP3、患者において過剰な蓄積
研究グループでは、αSynと結合する脂質をメンブレンストリップ法で探索したところ、PIP3が強く結合することを見出した。さらにPIP3とαSynを混ぜたところ、αSynが異常な構造をもつ凝集体を作ることがわかった。この凝集体の形や性質を調べたところ、いくつかあるαSynが蓄積する病気の中で、特にPD患者の脳内で蓄積するαSyn凝集体と形や性質が類似していることを明らかにした。次に、培養細胞や神経細胞においてPIP3が蓄積する処置をすると、リソソームやシナプス終末といった、実際の患者でαSynが凝集を開始する場所においてPIP3と一緒に凝集蓄積するαSynが観察された。患者の脳組織のPIP3の量を、質量分析や免疫染色を用いて測定したところ、PD患者において過剰に蓄積していることがわかった。さらに免疫染色でαSyn凝集体とPIP3が一緒に凝集していることを示した。これらの結果から、PIP3の過剰な蓄積が、PD患者においてαSynのレビー小体形成のきっかけになっていることを示唆し、これまで明らかにされてこなかったαSyn凝集のきっかけの一部を解き明かしたことになる。
PIP3、PDのバイオマーカーや新規治療法の開発につながると期待
「本研究成果によってαSyn凝集のきっかけが解き明かされたことで、PIP3がPDのバイオマーカーの可能性やPIP3の過剰な蓄積を抑える治療や、αSynとの結合を阻害する治療といった全く新しい治療戦略が今後展開されるものと考える」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU