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エクリン汗腺に発現の嗅覚受容体と発汗調節できる香料をセットで発見-長崎大ほか

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2023年03月31日 AM10:37

指定難病の無汗症「AIGA」や原発性多汗症など、発汗異常治療の選択肢は限定的

長崎大学は3月29日、エクリン汗腺が嗅覚受容体を発現し、ある種の香料の皮膚への塗布によって発汗を調節できることを発見したと発表した。この研究は、同大医歯薬学総合研究科皮膚病態学の室田浩之教授、村山直也医師、同大先端創薬イノベーションセンターの田中義正教授ら、、東北大学大学院薬学研究科井上飛鳥教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JID Innovation」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

発汗量の減少は体の熱の調節を困難にし、熱中症の原因となる。また、加齢による皮膚老化やアトピー性皮膚炎に伴う発汗量の減少は、皮膚乾燥や病原体の感染を生じやすい状態を形成する。その他、明らかな原因なく体表面積の25%以上で発汗が停止することで、暑熱環境において倦怠感や熱中症を生じ、一過性の皮膚の疼痛やコリン性蕁麻疹を生じる疾患を特発性後天性全身性無汗症(AIGA)と言い、指定難病となっている。令和2年度までの指定難病登録数は全国で443人とまれな疾患ではあるが、患者数は年々増加傾向にある。AIGAの原因は不明で、それゆえに確立された治療がない。症状によって生活への支障が大きい重症例に対してステロイドの全身投与を行うことがあり、約半数は一時的に回復するが、再発例や無効例も多いのが実情だ。発汗量を増やす方に調節できる処置の開発が熱望されている。

明らかな原因なく発汗過多を来す疾患として、原発性多汗症がある。緊張時、暑熱環境中等で過剰な発汗を起こし、その汗が直接あるいは汗染みとして目に見えることや、物に触れるときに躊躇するなど、日常・社会生活に負の影響を及ぼす。厚生労働省疾患等政策研究事業発汗異常を伴う稀少難治療性疾患の治療指針作成、疫学調査の研究班の報告によると、多汗症のために労働能率が約30%損なわれる。治療方法は薬剤で汗の出口を塞いだり、神経の活動を抗コリン薬やボツリヌス毒素で抑えたりするなどの治療を検討する。一方で、これら治療による副作用が懸念され、満足できる効果を得られない場合がある。発汗異常治療のアンメットニーズを反映するかのごとく、多汗症患者が汗対策の衛生用品にかける費用は年間約245億円と試算されている。多汗症の対策として副作用の懸念が少なく、発汗量を減らすことのできる方法の開発が熱望されている。

エクリン汗腺に発現の嗅覚受容体OR51A7を同定、発汗部で高発現/無汗症で低発現

今回の研究では、AIGA患者由来の既に保存されている組織サンプルを使用。AIGAのパラフィン包埋皮膚標本から、発汗部および無汗部皮膚のエクリン汗腺を摘出し、RNAシークエンス解析により遺伝子発現のプロファイリングを実施。発汗部と無汗部の遺伝子発現を比較し、有意差(<0.01)および2倍以上の遺伝子発現差を持つ転写物をフィルタリングして102の遺伝子を同定した。その中で嗅覚受容体OR51A7、OR6C74、OR4A15は、発汗部のエクリン汗腺で高発現しており、一方の無汗症の汗腺ではその発現レベルが低下していた。

これら嗅覚受容体の発現および局在を確認するため、無汗症の皮膚病理標本でin situハイブリダイゼーション(ISH)を実施したところ、OR51A7 mRNAの発現が汗腺分泌細胞の細胞質と汗腺を取り囲む筋上皮細胞で検出された。他のOR6C74、OR4A15はISHで確認ができず、以後確認の取れたOR51A7に注目して研究を進めた。

OR51A7、香料βイオノンに反応

OR51A7を活性化する香料は未解明であったため、同じOR51受容体ファミリーであるOR51E2を活性化する香料βイオノンをOR51A7の香料の候補として検証。免疫組織学的検討からOR51E2もエクリン汗腺に発現していた。OR51A7あるいはOR51E2、そして嗅覚受容体の活性化に必要なGタンパク質を強制的に発現させた培養細胞(HEK293)を用いて、アルカリフォスファターゼーTGFαシェディングアッセイで確認した。このアッセイ系では、嗅覚受容体が香料に反応すると発色し、その発色の強さが反応の強さを表す。その結果、OR51A7はβイオノンにOR51E2よりも高い感受性で反応することがわかった。

OR51A7を活性化するためのβ-イオンの最小濃度は100μMだった。免疫組織学的検討からOR51E2もエクリン汗腺に発現しており、多少成人の発汗に影響することが示唆された。

βイオノン塗布の皮膚で軸索反射性発汗を評価、発汗は女性で「減」/男性で「増」

次に、βイオノンの局所投与がOR51A7またはOR51E2を介してヒトの発汗に影響するかについて、定量的腹部運動軸索反射試験(QSART)によりヒトで検討した。βイオノンを局所塗布は女性の発汗を減少させた一方、男性は発汗量が増加。この男女差は発汗だけではなく、女性協力者は全員βイオノンの匂いを感知できたが、男性協力者はほとんど匂いを感じられなかった。性別の違いがなぜ生じるのかを現時点で説明することはできないが、βイオノンを皮膚に塗布した皮膚ではなんらかの発汗誘発刺激に伴う発汗量が変化し、女性は発汗減少傾向、男性は発汗増加傾向を示すことが確認された。

今回の研究成果は、発汗を制御する新規創薬に貢献すると期待される、と研究グループは述べている。

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