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自閉症特有の行動時皮質機能ネットワークパターンをVRシステムで明らかに-神戸大ほか

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2023年03月30日 AM11:27

行動特徴を基に行われる自閉症の診断、定量的観点からはほど遠いことが課題

神戸大学は3月29日、大脳皮質の広範囲な神経活動を行動中のマウスから測定することができるVRイメージングシステムを構築し、自閉症モデルマウスの皮質機能ネットワークダイナミクス異常を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科生理学分野の中井信裕特命助教、内匠透教授(兼 理化学研究所生命機能科学研究センター客員主管研究員)、北海道大学大学院医学研究院神経薬理学教室の佐藤正晃講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

)は未解明な部分の多い神経発達障害であり、特徴として社会性コミュニケーションの低下、特定の物事への強いこだわりや繰り返し行動を呈する。自閉症者は顕著な増加傾向にあり、社会課題のひとつとして考えられている。現在でも自閉症診断は行動特徴を基に行われるため、定量的観点からはほど遠く、新たなバイオマーカーの創出が望まれている。

近年では自閉症者特有な脳の機能的異常を明らかにするための研究が進められている。安静時のfMRI研究では、幼少の自閉症者では脳機能ネットワークの密度が増加して、成人では低下していることが示唆されている。しかしながら、こういった変化は個人差も大きく、また、安静時の解析のため脳機能ネットワーク異常がどのように行動に影響を与えるのか明らかとなっていなかった。

トレッドミル上マウスの皮質機能ネットワークを解析するVRイメージングシステムを構築

自閉症には遺伝的素因が強く関連し、コピー数多型などのゲノム異常が脳神経病態に関与するものと考えられている。最近では自閉症の脳神経病態を解明するためにヒトのゲノム異常をモデル化した動物(特にマウス)がよく用いられている。研究グループは、行動中の自閉症モデルマウスの脳活動をリアルタイムで測定することのできるVRイメージングシステムを開発し、脳機能ネットワークダイナミクスを調べることで、行動時の脳内に生じる自閉症特有の現象を明らかにしたいと考えた。

はじめにVRイメージングシステムを構築した。頭部固定したマウスをトレッドミル上に置き、スクリーンに映し出されたバーチャル空間の映像を見せる。バーチャル空間には実際のマウス行動実験に使われるフィールドを再現したものを用意した。トレッドミルの動きが映像に反映されるので、マウスは自由にバーチャル空間を探索することができる。運動量などの行動測定と同時に、経頭蓋カルシウムイメージングを行い、大脳皮質の広範囲な機能領野活動をリアルタイムで計測する。このためにカルシウムセンサータンパク質(GCaMP)を神経細胞に発現するトランスジェニックマウスを用いた。また、皮質機能ネットワークダイナミクスの解析手法を確立した。カルシウムイメージングから得られた1秒間の神経活動データから機能領野間の相関を計算し、グラフ理論を用いて機能ネットワークを可視化した。

マウスが自発的に運動を開始するまたは停止するタイミングを基準に前後3秒間の時間帯を解析し、各時間窓のネットワーク特性を調べた。その結果、運動開始とともにネットワークの構造が変化し、モジュール性が増加することが明らかとなった。また、運動停止とともにネットワーク構造が静止時の状態に戻ることがわかった。このように、静止状態から運動状態、運動状態から静止状態に切り替わるときのネットワークダイナミクスを可視化することに成功した。

自閉症モデルマウス、運動開始後の皮質機能ネットワークパターンに違いを発見

そして、このVRイメージングシステムを用いて、自閉症モデルマウスの大脳皮質機能ネットワークを解析した。実験には、世界で最初のコピー数多型の自閉症モデルマウスとして確立された15q dupマウスを用いた。15q dupマウスはトレッドミルの運動量が低下しており、VR空間上の移動距離が低下していた。皮質機能ネットワークを調べたところ、運動開始後のネットワーク結合が密になっており、ネットワーク中心性が減少、さらに、機能ネットワークのモジュール性が低下していることがわかった。

機械学習を用い高精度に自閉症モデルマウスを判別することに成功

このようにネットワークパターンに違いが認められたことから、機械学習のひとつであるサポートベクトルマシンを用いて、皮質機能ネットワークによる自閉症モデルマウスの識別を試みた。複数個体の15q dupマウスと野生型マウスのネットワークパターンを学習させて、別個体のテストデータが自閉症モデルマウスであるかどうかを判別したところ、78〜89%の精度で判別することに成功した。この結果は、行動するときの脳機能ネットワークには自閉症識別に関する汎用性の高い情報が含まれていることを示唆する。また、脳の中でどの情報が重要視されているかを調べたところ、特に運動野の機能的結合が自閉症モデルマウスの識別に重要であることが明らかとなった。

以上から、自閉症モデルの15q dupマウスでは運動時の皮質機能ネットワークが密になっており、モジュール性が低下していた。また、機械学習を用いることで、行動変化に関連するときの皮質機能ネットワークパターンから自閉症モデルマウスを高精度に判別できることを明らかにした。

病態の要因解明やバイオマーカー創出に期待

自閉症モデルマウスの脳機能ネットワークの特徴として、運動野の機能的結合が自閉症の判定に重要であることが明らかとなった。今後、これらの解剖学的結合や神経生理を詳細に研究することで、運動野と他のどの脳領域とのネットワークが自閉症病態の要因となるかを解明していくことができる。また、行動するときの自閉症の脳機能ネットワークダイナミクス研究が進むことで、自閉症診断のための新たなバイオマーカーの創出が期待される。

今回の研究では、行動中のマウスから記録された広範囲皮質活動を解析することで、脳の皮質機能ネットワークが行動依存的にダイナミックに変化する様子を可視化することができた。VRイメージングシステムのバーチャル空間は、現実世界で行われるマウス行動課題フィールドを再現している。VRでは、視覚、聴覚、嗅覚など複数の感覚情報を利用したマルチモーダル環境を構築することが可能である。「自閉症者の主な症状として社会性コミュニケーションの低下が挙げられるため、将来的には、バーチャル空間にマウスの社会環境を構築し、自閉症モデルマウスが社会行動を行うときの脳機能ネットワークダイナミクスがどのように変化しているのかを調べていきたいと考えている」と、研究グループは述べている。

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