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COVID-19に伴う小児急性脳症の調査実施、臨床像を解明-東京女子医大ほか

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2023年03月30日 AM09:30

COVID-19に伴う急性脳症発症の18歳未満患者31人、年齢・性別・症状などを調査検討

東京女子医科大学は3月28日、小児の新型コロナウイルス感染症()に関連した小児急性脳症の調査を実施し、その臨床像を明らかにしたと発表した。この研究は、同大附属八千代医療センター小児科の高梨潤一教授、東京都医学総合研究所脳・神経科学研究分野こどもの脳プロジェクトの佐久間啓プロジェクトリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Neuroscience」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は主に呼吸器に感染し、脳に影響を及ぼすことはまれと考えられてきた。しかし2022年に基礎疾患のない小児がCOVID-19に伴い急性脳症を発症し死亡したというニュースが報道され、社会的関心が急速に高まった。そこで研究グループは日本の小児におけるCOVID-19に伴う急性脳症の実態を明らかにするために、緊急の全国調査を実施した。

今回の調査は厚生労働科学研究・難治性疾患政策研究事業「小児急性脳症の早期診断・最適治療・ガイドライン策定に向けた体制整備」研究班(通称:小児急性脳症研究班、研究代表者:髙梨潤一氏)の事業として実施し、日本小児神経学会共同研究支援委員会の支援を受けた。調査方法は日本小児神経学会会員を対象としたウェブアンケートで、2022年5月31日までにCOVID-19に伴い急性脳症を発症した18歳未満の患者を対象として、患者の年齢・性別・症状・診断名・転帰などについて調査。なお、この研究は「新型コロナウイルス感染症の神経合併症に即応するための臨床研究」(研究代表者:佐久間啓)として東京都医学総合研究所倫理委員会による審査を受け、適切な研究であると承認されている。また、脳画像等の臨床情報を提示する際には患者もしくは保護者の同意を得ている。

今回の調査では、217の医療機関より回答があり、39人の患者の報告があった。このうち5人は設定した対象基準を満たしていなかったことから除外され、34人がCOVID-19に伴い急性脳症を発症したことがわった。このうち3人は急性脳症の原因となる基礎疾患を持っていたため除外し、31人を検討の対象とした。

小児COVID-19患者数増加に伴い、急性脳症も増加

31人中29人は、オミクロン株が流行の主体となった2022年1月以降に急性脳症を発症していた。なお、小児のCOVID-19患者数も2022年より急増しており、小児のCOVID-19患者の中から急性脳症を発症した割合を調べてみると、2021年以前と2022年以降でほぼ変わらないことがわかった。従って、オミクロン株が急性脳症を引き起こしやすいわけではないと考えられた。

急性脳症前に重症の呼吸障害があった人はいない

成人、特に高齢者では、COVID-19による重症の肺炎の治療中に脳症を発症することが報告されている。しかし、今回の調査では急性脳症を発症する前に肺炎などにより既に重い呼吸障害があった人は一人もいなかったという。脳の症状としてはけいれん、意識障害、異常な言動などが多く、COVID-19による発熱に加えてこれらの症状が見られた場合には急性脳症に注意する必要がある。

また、急性脳症からの回復の程度を調べてみると、31人中19人は急性脳症になる前の状態まで回復したが、4人が死亡し、8人は何らかの神経学的な後遺症を残した。8人のうち5人は比較的重い後遺症だった。このように急性脳症の中でも患者により回復の程度に大きな差があることがわかり、なぜこのような違いが出てくるのかが問題になるとしている。

急性脳症症候群のタイプ、けいれん重積型急性脳症が最多

急性脳症は単一の病気ではなく、特徴的な臨床・画像所見を呈する複数の急性脳症症候群の複合体であると考えられている。これまでの日本における調査結果では、急性脳症症候群の中では、けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)というタイプが最も多く、可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎脳症(MERS)がこれに続くことが明らかにされている。COVID-19による急性脳症でもAESDが31人中5人と最も多く、過去の報告と一致している。

一方、過去の調査では極めてまれとされていた、劇症脳浮腫を伴う脳症や出血性ショック脳症症候群というタイプが比較的多い(それぞれ3人、2人)ことが判明。この2つのタイプではいずれも脳浮腫が急速に進行し致死率が高いことから、急性脳症症候群を診療する上で大きな問題になるとしている。

急性脳症症候群、その他の急性脳症と比べて重症化の傾向

急性脳症の患者の約半数は、AESDやMERSなどの急性脳症症候群のいずれかのタイプを示すが、残りの約半数はいずれの症候群にも分類されなかった。そこで特定の急性脳症症候群に当てはまる患者と当てはまらない患者(その他の急性脳症)に分けて、その特徴を比較した。

その結果、その他の急性脳症と比べて、急性脳症症候群では回復の程度が明らかに悪いことがわかった。つまり、急性脳症症候群はその他の急性脳症と比べて重症化する傾向があり、このような結果が統計学的解析によって裏付けられたのはこれが初めてだとしている。

ウイルス関連急性脳症への理解が深まることに期待

日本ではインフルエンザなどのウイルス感染症に伴う小児の急性脳症が多いことが知られているが、欧米では発生が少ないためこの病気は医療関係者の間でもあまり知られていない。このことがウイルス関連急性脳症に関する研究が進まない原因の一つになっている。今回の研究成果が国際的な医学雑誌に掲載されたことにより、専門家の間でウイルス関連急性脳症に対する理解が深まることが期待される。

インフルエンザなどの一部の例外を除き、年間に何人のこどもがウイルス感染症にかかっているかを示す正確なデータはない。これに対してCOVID-19ではこの研究の実施期間中の正確な患者数が集計されていることから、急性脳症の発生率を予測しやすいというメリットがある。

また、ウイルス関連急性脳症の中でも特徴的な臨床・画像所見を示す急性脳症症候群は重症化する傾向が明らかになったことから、今後はこれらの症候群を重点的に研究することで、より多くの患者を救うことができるようになることが期待される。

研究グループは、今後もCOVID-19に関連する急性脳症の調査を継続し、その結果を発信し続ける予定。さらに、研究を進めていくためには、COVID-19をはじめとするウイルス感染症に伴う急性脳症の患者登録システムを作るなど、データを効率的に集めるための体制づくりが必要だと述べている。

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