腰部脊柱管狭窄症で腰椎手術の65歳以上103人、半年・1年後の受診時に内服薬を調査
藤田医科大学は3月27日、65歳以上の腰部脊柱管狭窄症患者対象の腰椎手術前と手術後の内服薬調査の結果、手術前は約3分の2がポリファーマシーに該当したが、手術後は内服薬が減り、ポリファーマシーの割合も有意に減少することがわかったと発表した。この研究は、同大整形外科学講座の藤田順之教授と臨床薬剤科の山田成樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Geriatrics」に掲載されている。
超高齢社会の到来とともに、高齢者の薬の飲みすぎである「ポリファーマシー」が社会的な問題になっている。ポリファーマシーには明確な定義はないが、一日に5剤または6剤以上内服されている場合をポリファーマシーとすることが多い。ポリファーマシー自体は決して悪いことではないものの、内服薬が増えれば増えるほど、潜在的に不適切な処方が含まれるリスクが高くなり、転倒などを含む薬物有害事象や薬の飲み間違いにつながるといわれている。一般的に、高齢になるほど複数の病気にかかるリスクが高まるため、高齢者では処方される薬剤が多くなる傾向にあるが、今後日本の高齢化が進むにつれて、医療費の高騰を招き、国の財政を圧迫することも指摘されている。
腰部脊柱管狭窄症とは、脊柱管が狭くなることによって馬尾や神経根が圧迫を受け、臀部から下肢の疼痛やしびれ感が生じる症候群とされている。日本においては500万人以上の患者数が推定され、高齢化が進むにつれてさらに増えると言われている。治療においては、まず薬物療法、ブロック注射、運動療法などの保存療法が行われるが、効果がない場合や日常生活に大きく支障をきたしている場合は手術が行われ、手術の治療成績もおおむね良好であることが知られている。腰部脊柱管狭窄症では、慢性的な腰痛や足のしびれ感や痛みのために、痛み止めの薬が処方されることが多い。また、高齢者では他の病気を持っている方も多いことから、高齢の腰部脊柱管狭窄症患者ではポリファーマシーの割合が高いことが予想されていた。しかし、実際にどれぐらいの割合の患者がポリファーマシーに該当し、また、手術を行うことによってポリファーマシーの割合が変化するのかはわかっていない。
そこで今回の研究では、藤田医科大学病院で2020年4月~2021年3月までに、65歳以上で、腰部脊柱管狭窄症の診断のもと腰椎手術が行われた132人の内、手術後半年、1年後に外来受診された患者103人の内服薬を調査した。
術後はポリファーマシー割合が55.9%まで減少、減ったのは痛み止め・消化管への薬
調査の結果、手術前は患者68人(66.7%)が6剤以上内服しているポリファーマシーに該当。術後半年、術後一年で平均内服薬数が徐々に減少し、ポリファーマシーの割合は術後1年で57人(55.9%)まで減少した。薬の内訳としては、痛み止めと、それに合わせて消化管に対する薬も減少していることがわかった。
腰椎手術、高齢者ポリファーマシー改善の一助になる可能性
現在、腰部脊柱管狭窄症の患者にはいろいろな薬が処方されるが、ポリファーマシーの観点からは、患者の症状に合わせて、また、その副作用を考慮して、薬を選択することが求められている。また、腰部脊柱管狭窄症に対する腰椎手術は、痛み、歩行能力、社会生活、心理的な側面などに対して有効であることはわかっていたが、同研究結果より、ポリファーマシーに対しても有効であることもわかった。腰椎手術はポリファーマシー改善の一助になることから、特に高齢の患者は、我慢しすぎず、適切なタイミングで手術を受けたほうが良いということを社会に啓蒙していきたい、と研究グループは述べている。
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・藤田医科大学 プレスリリース