夜間の不十分な睡眠はワクチンの効果を低下させる?
夜間の不十分な睡眠は、ワクチン接種後の抗体反応を低下させる可能性のあることが、「Current Biology」に3月13日掲載されたメタアナリシスで明らかにされた。ワクチン接種前後の睡眠時間が6時間未満の人では、7時間以上の人に比べてワクチン接種後に産生される抗体の量が少なく、その損失は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種後2カ月間の抗体減少に相当するものであったという。研究論文の上席著者で米シカゴ大学名誉教授のEve Van Cauter氏は、「十分な睡眠はワクチンの効果を増強するだけでなく、持続期間も延ばすと考えられる」と述べている。
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Van Cauter氏は2002年に、論文の筆頭著者であるフランス国立衛生医学研究所のKarine Spiegel氏とともに、睡眠のインフルエンザワクチンへの影響に関する画期的な研究を発表している。この研究では、睡眠時間が制限された人では、ワクチン接種後10日目の抗体レベルが対照群の約半分になることが示されていた。この知見をアップデートするべく、同氏らはウイルス感染症(インフルエンザ、A型・B型肝炎)のワクチンに関する7件の研究結果を統合して、睡眠時間と抗体反応との関連を検討した。
18~85歳の504人を対象に、自己報告による不十分な睡眠(6時間未満と定義)とワクチン接種後の抗体反応の低下との関連を検討したところ、事前に設定した統計学的有意水準に到達しなかった。しかし、全般的に睡眠時間が短い傾向がある65歳以上の高齢者のみを対象にした研究を除外し、18〜60歳の299人を対象に解析すると、関連は有意であった。
さらに、ウェアラブルデバイスなどで睡眠時間を客観的に評価した研究を対象に解析すると(解析対象者304人)、6時間未満の睡眠時間とワクチン接種後の免疫反応の低下との間に強い関連が認められた。しかし男女別に解析すると、関連が有意だったのは男性のみで、女性では有意ではなかった。研究グループはこの理由を、女性ではホルモン値の変動が大きいためではないかとしている。Spiegel氏は、「免疫に関する研究から、性ホルモンが免疫系に影響を及ぼすことが明らかにされている。女性の場合、月経周期、避妊薬の使用、閉経期や閉経後などの状態により免疫が影響を受けるが、今回、解析対象とした研究の中に、性ホルモン値に関するデータを扱っているものはなかった」と説明している。
なお、研究グループはこのメタアナリシスの結果と、ファイザー社製のCOVID-19ワクチン接種後の抗体反応に関する既存のデータを照らし合わせた上で、6時間未満の不十分な睡眠が抗体反応の低下にもたらす影響は、ワクチン接種後2カ月間での抗体減少に相当すると見積もっている。
Van Cauter氏は、「COVID-19ワクチン接種により得られる防御効果は、既存の疾患のある人、男性、肥満の人では低下しやすい。これらはいずれも個人では変えられない因子だが、睡眠時間は自分で改善することができる」と指摘する。
一方Spiegel氏は、「今後は、特に女性での性ホルモンの状態を考慮した、より大規模な研究を実施する必要がある。また、不十分な睡眠の日が何日続くと抗体反応に影響が出るのかや、十分な睡眠が重要になるのはワクチン接種前だけなのか、それともワクチンを接種した日やその後も重要なのかなどについても解明する必要がある」と述べている。
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