血液から調製するɤδT細胞の増幅力には限界、iPS細胞に着目
神戸大学は3月24日、ヒトiPS細胞からさまざまながんを攻撃するɤδ(ガンマ・デルタ)T細胞を作製することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の青井貴之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」に掲載されている。
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ɤδT細胞はさまざまな種類のがんを攻撃することが知られている。患者本人以外のɤδT細胞であってもがんを攻撃することができ、患者の正常細胞を攻撃するGVHDがない。これらの性質は、T細胞の多くを占めるαβT細胞にはない性質だ。これらのことから、ɤδT細胞を体外で増幅してがんに対する免疫細胞療法に用いるための取り組みが行われてきた。しかし、血液から調製するɤδT細胞の増幅力には限界がある。そのため、患者ごとに患者自身のɤδT細胞を体外増幅して投与することはできても、少数の提供者の血液を元に多数の患者の治療に十分な量までɤδT細胞を増やすこと、すなわち既製品(off-the shelf)のɤδT細胞を作製して治療に用いることは実現していない。
そこで研究グループは、無限の増殖能と分化多能性を持つiPS細胞に着目。先行研究より、ɤδT細胞からiPS細胞を作製することに成功し、そのiPS細胞が血液細胞の元になる細胞(造血幹細胞)に分化する能力があることを確かめていた。しかし、さらに機能的なɤδT細胞を作製することができるか否かは未確認だった。
iɤδT細胞は提供者以外の各種がん細胞を攻撃できると確認
今回、研究グループは、ヒト末梢血由来ɤδT細胞からiPS細胞を作製し、ここから再度ɤδT細胞を作製することに成功。これを「iɤδT細胞」と名付けた。iɤδT細胞は、その元となった細胞の提供者とは他人の関係にある大腸がん細胞、肝がん細胞、白血病細胞を攻撃することが確認された。この結果から、iɤδT細胞はその元となった細胞の提供者以外の人のがんの治療に有効であることが示唆された。
体外増幅培養の細胞集団とは異なり、末梢血中のγδT細胞に「そっくり」
iɤδT細胞の遺伝子発現を1細胞毎に網羅的に解析したところ、末梢血由来ɤδT細胞を体外増幅培養して得られた細胞の主たる集団とは異なる特徴を示した。一方、新鮮な末梢血液中に存在する、いわば本物のɤδT細胞とiɤδT細胞とはそっくりであることがわかったとしている。
大量製造可能なiɤδT細胞、がん免疫細胞療法への応用に期待
今回の研究では、ヒトiPS細胞から機能的なɤδT細胞を作製することに成功した。今回は、動物細胞や血清を用いた方法で作製している。一方、臨床応用に好ましいように、それらを用いない方法でのiɤδT細胞作製にもすでに成功しているという(未発表)。将来的にはiɤδT細胞をがんに対する免疫細胞療法に用いることが期待される。また、iPS細胞は遺伝子操作を行うのが比較的容易なため、その段階で遺伝子操作を行うことで、より高機能な免疫細胞療法製剤を作ることも期待される。具体的には、細胞の活性を上げるような遺伝子操作や、がんや感染症に対するCAR-T療法やTCR-T療法への応用を行うことだ。いずれも、患者ごとのオーダーメイドではなく、あらかじめ大量製造しておく、既製品(Off-the self)とすることで、品質の安定や患者当たりのコストの大幅な低減が見込まれる、と研究グループは述べている。
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・神戸大学 プレスリリース