再生医療が期待される視床下部障害、視床下部神経幹細胞の性質を持つ「タニサイト」に注目
名古屋大学は3月24日、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)を用い、視床下部神経幹細胞の性質を持つ細胞を新たに作製したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学の三輪田勤医員、須賀英隆准教授、有馬寛教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」にオンライン掲載されている。
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視床下部は生体内の恒常性の維持を司る神経組織である。視床下部が障害されると機能が再生することはなく、ホルモン分泌不全、体温調節障害、肥満やそれに伴う生活習慣病などを来すが根治療法は存在せず現在は対症療法が行われている。しかしながら多くの場合、肥満や生活習慣病のコントロールは不良であり、より優れた治療法の必要性があった。
近年、多能性幹細胞から作製した臓器を移植する再生医療が注目を浴びており、特に神経に関しては、ドパミン神経の前駆細胞や脊髄神経の神経幹細胞をヒトに移植する臨床試験が進められている。同様の手法を視床下部に応用することが考えられるが、これまで視床下部に神経幹細胞が存在するかどうかはわかっていなかった。最近げっ歯類においてタニサイトと呼ばれる第3脳室周囲の細胞が視床下部神経幹細胞の性質を持つと示された。これまでに研究グループはマウス胚性幹細胞を用いて視床下部神経幹細胞の性質をもつ細胞を作製した。今回はこの方法を改良することにより、ヒトES細胞から視床下部神経幹細胞の作製を試みた。
RAXをマーカーにタニサイトを分取・培養、自己複製能と多分化能を認める細胞塊を形成
まず、胎生後期においてタニサイトに特異的に発現するRAXに蛍光タンパク質をノックインしたヒトES細胞を用いて、RAXが長期発現する成熟した視床下部神経組織を作製した。
この神経組織内のRAX陽性細胞を分取し培養したところ、RAX陽性細胞のみで構成される細胞塊であるneurosphereが形成された。このneurosphereは神経幹細胞の性質である自己複製能と多分化能とを認めた。
マーカー遺伝子導入のない野生型ヒトES細胞からも作製成功
このneurosphereを免疫不全マウスの腹側視床下部に移植したところ、マウスの脳内でneurosphereが生着し、一部の細胞が視床下部神経細胞に分化していることを確認できた。
加えて、遺伝子導入されていない野生型ヒトES細胞から視床下部神経幹細胞を作製することを試みた。検討の結果、細胞表面抗原を利用して視床下部神経幹細胞の性質を持つ細胞を作製することができた。
視床下部神経幹細胞から分泌されるエクソソーム、加齢に関する研究にも期待
「ヒトES細胞から視床下部神経幹細胞の性質を持つ細胞を作製する基盤技術ができたと考えられ、今後視床下部障害を来した患者への再生医療に応用できることが期待される。またマウスの視床下部神経幹細胞から分泌されるエクソソームは抗加齢作用を持つことが報告されており、加齢に関する研究にも役立つと考えられる」と、研究グループは述べている。
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