メサンギウム領域にIgA抗体が沈着する機序は不明だった
東京理科大学は3月23日、IgA腎症患者の血液中に、腎臓糸球体内のメサンギウム細胞の表面に発現するβ2スペクトリンというタンパク質に対するIgA型の自己抗体が存在することを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大生命医科学研究所の北村大介教授、順天堂大学大学院医学研究科腎臓内科学の二瓶義人助手、鈴木祐介教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」に掲載されている。
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IgA腎症は、腎糸球体のメサンギウム領域にIgA抗体が沈着することを疾患特徴とする慢性糸球体腎炎で、原発性としては世界で最も罹患者数が多いタイプである。詳細な病態原因が不明で、根治治療法が確立されていないことから、世界中でIgA腎症を原因に末期腎不全・透析に至る患者が後を絶たない。これまでIgA腎症において、腎臓へのIgA抗体沈着のメカニズムは明らかになっていなかったが、一般的に、部位特異的な抗体沈着は、その抗体が自己抗体である可能性を示唆することから、研究グループは、「腎糸球体内のメサンギウム細胞表面の抗原に対するIgA型の自己抗体が存在する」という仮説を立てて、その検証を行った。
IgA腎症患者の血清中に、メサンギウム細胞に対するIgA型の自己抗体を発見
研究グループは、樹立したIgA腎症自然発症モデルマウス(gddYマウス)の血清を1次抗体として用いて、蛍光免疫染色とウエスタンブロットを行った。その結果、gddYマウスの血清には、腎糸球体メサンギウム細胞に発現する約250kDaのタンパク質(p250)に対するIgA型の自己抗体が存在することが明らかになった。
IgA腎症患者の血清を用いて同様の検証を行ったところ、患者の血清にもp250に対するIgA型の自己抗体が高い頻度で存在することが判明した。このことから、IgA腎症では、メサンギウム細胞に対するIgA型の自己抗体が存在することがわかった。
自己抗原として、β2スペクトリンを同定
次に、このIgA型自己抗体が認識する自己抗原を同定するために、gddYマウスの血清IgAによって免疫沈降されたメサンギウム細胞タンパク質に対して、質量分析を行った(順天堂大学大学院医学研究科研究基盤センター生体分子研究室の三浦准教授らによる解析)。候補タンパク質の遺伝子の発現ベクターを作製し、ヒト胎児腎細胞株HEK293Tに候補タンパク質を過剰発現させ、gddYマウス血清IgAを用いたスクリーニングを行った。結果、数多くの候補タンパク質の中から、β2スペクトリンという細胞骨格タンパク質を自己抗原として同定した。驚くべきことに、gddYマウスのみならず、IgA腎症患者の血清でも、β2スペクトリンに対するIgA型の自己抗体(抗β2スペクトリンIgA)が高い頻度で検出した。
β2スペクトリンはメサンギウム細胞表面に発現、これを認識しIgA沈着
β2スペクトリンは、本来さまざまな細胞の細胞内に恒常的に発現する細胞骨格タンパク質として知られているが、マウス単離糸球体細胞を用いたフローサイトメトリー解析により、β2スペクトリンはメサンギウム細胞でのみ検出され、その細胞表面に発現していることがわかった。一方、gddYマウスの腎臓には、抗β2スペクトリンIgAを産生する形質細胞が浸潤していたことから、この形質細胞を用いて、β2スペクトリン認識リコンビナントIgA抗体(rIgA#9)を作成。rIgA#9を、IgAを欠損するマウスに尾静脈投与したところ、rIgA#9は腎糸球体のメサンギウム領域に沈着することが確認された。
以上の結果から、IgA腎症では、メサンギウム細胞表面に発現したβ2スペクトリンに対するIgA型の自己抗体が存在し、この自己抗体が腎糸球体のメサンギウム細胞表面のβ2スペクトリンを認識することで、腎臓にIgA抗体が沈着していくことがわかった。
疾患概念を変える革新的な発見、根治治療の開発に期待
今回、研究グループは、IgA腎症の病因に、抗β2スペクトリンIgAが深く関わっていることを解明した。「これまでIgA腎症では、腎臓特異的な自己抗体が存在するとは考えられてこなかったことから、研究成果はIgA腎症の疾患概念を変える革新的な発見と言える。今後、自己抗体の産生制御を軸とした治療が、IgA腎症の根治治療になることが期待される」と、研究グループは述べている。
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