院外心停止患者へのドクターカー・ヘリ出動によるECPR実施、神経学的予後を改善するか調査
京都府立医科大学は3月22日、体外循環式心肺蘇生法を実施した院外心停止患者に対するドクターカー・ドクターヘリと1か月後の神経学的予後の関係を検討したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科救急・災害医療システム学の中島聡志氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Current Problems in Cardiology」にオンライン掲載されている。
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救急医療サービスは重篤な疾病や外傷などの救急患者に対して初期治療を提供する。近年、病院外で突然発生する心停止(院外心停止)などの重篤な患者に対して、ドクターカー・ドクターヘリの出動が増加している。ドクターカー・ドクターヘリの出動はより高度な治療介入を早期にできる可能性がある。過去の研究では、院外心停止から体外循環式心肺蘇生法(Extracorporeal Cardiopulmonary Resuscitation:ECPR)の確立までの時間が短い方が神経学的予後を改善させると報告されている。研究グループは、ドクターカー・ドクターヘリの出動により、ECPRを早期に開始することができるため、院外心停止患者の神経学的予後を改善させる可能性があるのではないかと考え、ECPRを実施した院外心停止患者に対するドクターカー・ドクターヘリの出動と神経学的予後の関連を評価した。
出動した群としなかった群に分け、1か月後の神経学的予後や死亡率を比較
患者データは院外心停止患者に関する全国規模の多施設共同レジストリ(JAAM-OHCAレジストリ)を用いた。2014年6月〜2019年12月までに参加施設に搬入された5万7,754人の患者が登録されており、ECPRを実施した院外心停止患者のうち、ドクターカー・ドクターヘリが出動した群と出動しなかった群の2群に分け、1か月後の神経学的予後や死亡率を比較した。また、ドクターカー・ドクターヘリの出動のプロトコルは参加施設間で標準化されておらず、ドクターカー・ドクターヘリの出動前の患者情報がドクターカー・ドクターヘリの出動の選択に関連している可能性があるため、傾向スコアを用いた逆確率重みづけ法による解析を用い、観察研究における交絡因子の影響を最小化した。
神経学的予後・死亡率は出動によって改善せず、ECPRの実施までの時間は逆に延長
結果は、合計1,269人の患者が解析対象となり、ドクターカー・ドクターヘリによる治療を受けた患者が316人、治療を受けなかった患者が953人だった。1か月後の良好な神経学的予後は、ドクターカー・ドクターヘリによる治療を受けた群は7.9%(25/316)、治療を受けなかった群は9.9%(94/953)だった。傾向スコアを用いた逆確率重みづけ法により患者背景を調節し、1か月後の神経学的予後はドクターカー・ドクターヘリの出動によって改善しないことが観察された(ドクターカー・ドクターヘリの出動による1か月後の良好な神経学的予後のオッズ比0.72、95%信頼区間0.44-1.17)。また、1か月後の死亡率も改善されないことが観察された。さらに、ドクターカー・ドクターヘリの出動により、救急隊の覚知時刻から病院到着までの時間や、救急隊の覚知時刻からECPRの実施までの時間が逆に延長することが確認された。
ドクターカー・ドクターヘリを派遣する基準や役割について、重要な知見を提供し得る
今回の研究は、ECPRを実施した院外心停止患者に対するドクターカー・ドクターヘリの出動による神経学的予後への影響を評価した最初の研究である。過去の研究では院外心停止や外傷による心停止において、ドクターカー・ドクターヘリの出動は神経学的予後を改善させる可能性が報告されていた。しかし今回、ECPRを実施した院外心停止患者に対するドクターカー・ドクターヘリの出動と1か月後の良好な神経学的予後には関連がないことが観察された。今後、ドクターカー・ドクターヘリの出動がどのような患者群に影響を与えるのかさらなる研究が必要と考えられる。「ドクターカー・ドクターヘリの出動による院外心停止に関する最新の国際ガイドラインにおいて、ドクターカー・ドクターヘリの出動の適応や効果については報告されていない。本研究はドクターカー・ドクターヘリを派遣する基準や院外心停止患者に対するドクターカー・ドクターヘリの役割について、重要な知見を提供し得ると考える」と、研究グループは述べている。
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