子どものメンタルヘルス問題、原因の一部は親の過干渉?
米国では抑うつや不安などのメンタルヘルスの問題に苦しむ子どもが少なくない。そうした状況を生み出している原因の一部は、親の過干渉から子どもたちだけで遊ぶ機会が減っていることに求められることが、新たな研究で示唆された。米フロリダ・アトランティック大学心理学部教授のDavid Bjorklund氏らによるこの研究の詳細は、「The Journal of Pediatrics」に2月23日掲載された。
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Bjorklund氏は、「子どもの自立性の低下と増大するメンタルヘルスの問題は、一般に、最近生じたものと考えられている。しかし、実際には、何十年も前から徐々に大きくなり続けている問題だ」と話す。同氏によると、こうした問題の萌芽は1960年代に見られ、1980年代に加速度的に大きくなったという。上空を旋回して子どもを常に監視し、何かあればすぐに飛んでくるヘリコプターに親を例えた「ヘリコプターペアレント」という言葉が生まれたのもこの頃である。
Bjorklund氏らの研究では、子どもの精神疾患が増加している原因の一つとして、この数十年で、子どもが親の直接的な監督下にない状況で友達と遊んだり、ぶらついたり、何らかの活動を行う機会が減っていることが挙げられている。大人としては、子どもを守るために常に子どもを見張っているのだが、結果的には子どものメンタルヘルスに必要な自立心を損なうこととなり、それが現在の若年者での高レベルの不安や抑うつ、自殺念慮をもたらしていると研究は指摘する。なお、2021年には、米国小児科学会、米国児童青年精神医学会、米小児病院協会は、小児および青少年のメンタルヘルスを「国家の緊急事態」と宣言する共同声明をホワイトハウスに出している。
Bjorklund氏は、「子どもにとって、大人の干渉を受けずに遊んだり、自発的に活動したり、家族に貢献する機会を持つことは、他者からの信頼や、自身の責任感、有能感を感じるのに役立つ」と話す。同氏は、「人によっては信じがたい考え方かもしれないが、遊びは重要だ」と断言する。そして、「遊びは、定義だけを見てもその重要性は伝わらない。しかし、子どもの健康と、社会性、精神、および感情の発達における遊びの重要性は、遊びの専門家も指摘していることだ」と付言する。
このほか本研究では、学校から出される宿題の多さと、学校で過ごす時間の長さも、メンタルヘルスの低下の一因として挙げられている。宿題は、今や低学年の児童にも出されるのが普通である。また、1学年の長さは、1950年から2010年の間に平均5週間増加した。これに対し、2014年の学校での1日当たりの休憩時間は、平均わずか26.9分であったという。
さらに、良い成績を求めて親が子どもにかける強いプレッシャーも、子どものメンタルヘルス低下に拍車をかけているとBjorklund氏らは指摘する。この傾向は、特に子どもの大学進学を計画している中流階級の家庭において顕著であるという。
この研究には関与していない、米Child Mind InstituteのJill Emanuele氏は、「子どもが、体系化されていない遊びをするための機会をもっと持つ必要性は、子どものメンタルヘルスに影響を及ぼし得る他の多くの問題の一つに過ぎない」と述べる。同氏は、「遊びは子どもの発達に欠かせない要素だ。子どもは遊びを通して、認知スキル、社会的スキル、言語スキル、身体的スキルについて、またリスクを伴う行動について、さらには、他の子どもたちとの交流方法、自己調整と管理などについて学ぶ。子どもの創造性や想像力を培うのも遊びだ」と話し、「子どもが独力で自分の世界を築き、今述べたようなスキルを全て身に付けることができる遊びの時間は、子どもにとって極めて重要だ」と主張する。
Bjorklund氏は、「この研究で提起された問題を解決するための最初のステップは、その必要性を認識することだ」と述べる。その上で、他の親と協力して、子どもたちだけで店に行かせたり、友達の家の庭で遊ばせたりなどして、より自立した行動を子どもに取らせること、学校に休み時間を長くするよう要請すること、リスクを伴う遊びとして木登りをさせたりすることなどを提案している。
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