FDA迅速承認、日本で優先審査に指定されているレカネマブ
エーザイ株式会社は3月20日、アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)および軽度AD(総称して早期ADと定義)当事者に対する抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体であるレカネマブ(米国ブランド名:LEQEMBI)の社会的価値について、米国における医療費支払者観点および社会的観点から、レカネマブの臨床第Ⅲ相Clarity AD試験のデータを用いて、検証済の疾患シミュレーション・モデル(AD Archimedes Condition Event simulation:AD ACEモデル)により推定した最新の評価結果を論文発表したと明らかにした。研究成果は、「Neurology and Therapy」に掲載されている。
レカネマブは、BioArctic AB(本社:スウェーデン)とエーザイの共同研究から得られた、アミロイドベータ(Aβ)の可溶性(プロトフィブリル)および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体である。米国では、ADの治療を適応症として、2023年1月6日に米国食品医薬品局(FDA)より迅速承認され、同年1月18日から発売されている。レカネマブがADの特徴である脳内に蓄積したAβプラークの減少効果を示した臨床第Ⅱ相試験の結果に基づくものであり、検証試験により臨床的有用性を確認することが迅速承認の要件となっている。フル承認への変更に向け、2023年1月6日に生物製剤承認一部変更申請(supplemental Biologics License Application:sBLA)をFDAに提出し、3月3日に受理された。同申請は優先審査に指定され、PDUFA(Prescription Drugs User Fee Act)アクションデート(審査終了目標日)は2023年7月6日に設定されている。
日本では、2023年1月16日に、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に製造販売承認申請を行い、1月26日に厚生労働省より優先審査に指定されている。日本の申請において、審査期間の短縮を目指し、医薬品事前評価相談制度を活用している。欧州でも、2023年1月9日に欧州医薬品庁(EMA)に販売承認申請(MAA)を提出し、1月26日に受理されている。また、中国では、2022年12月に国家薬品監督管理局(NMPA)に生物ライセンス申請(BLA)のデータ提出を開始し、2023年2月27日に優先審査に指定されている。
直接的なケアコスト、家族介護による生産性損失などを考慮して試算
同社は、アミロイド病理を有する早期AD当事者に対するレカネマブの有効性と安全性を評価した臨床第Ⅲ相Clarity AD試験の結果と、公表されたその他論文を用いて、シミュレーションを実施した。「医療費支払者観点」では、直接的なケアコスト(外来・入院サービス、介護・在宅医療サービス、レカネマブの薬剤費を除く投薬、その他介入コストなど)に焦点を当てているのに対し、「社会的観点」では、直接的なケアコストに加えて、社会的コスト(家族介護によるインフォーマル・ケアコストおよび生産性損失)も考慮した(以下、社会的観点に基づく評価)。
レカネマブ治療群、社会的観点に基づく評価は0.64QALYs増加、7,451ドル減少と予測
アミロイド病理を有する早期AD当事者において、標準治療(SoC:standard of care)に加え、レカネマブ投与を行った群(レカネマブ群)は、SoCのみ行った群(SoC群)と比較して、医療費支払者観点では0.61質調整生存年(QALY:Quality-adjusted life years、健康アウトカムの価値を示す指標)の増加と、6,263ドルの総費用(レカネマブの薬剤費を除く)の減少となった。また、社会的観点に基づく評価では0.64QALYs増加、7,451ドル減少をもたらすと予測された。同シミュレーションで得られたレカネマブの平均投与期間は3.91年だった。
獲得QALYs当たり10万ドルから20万ドルの支払意思額(WTP:willingness to pay)において、米国医療制度下におけるレカネマブの年間価値は、医療費支払者の視点で1万8,709ドル~3万5,678ドル、社会的観点に基づく評価で1万9,710ドル~3万7,351ドルと試算された。ADのように社会的コストが大きく、介護者に甚大な影響を与える疾患の場合には、より高いWTP閾値である20万ドルを用いた社会的観点に基づく評価の適用が考慮される。
論文では、レカネマブ投与により早期AD当事者や介護者にとってより高い健康アウトカムや生活の質(QOL)の向上をもたらし、より低い経済負担につながる可能性が示唆されたと結論付けている。
AD当事者/介護者だけでなく、社会全体に大きなインパクト
同社の常務執行役であり、グローバルADオフィサーであるIvan Cheung氏は、「本シミュレーションの結果は、レカネマブによってもたらされる社会的価値を定量的に示したものであり、レカネマブはAD当事者とその介護者だけでなく、社会全体に大きなインパクトをもたらすことが示された。幅広い支払意思額が検討され、重症度調整後の支払意思額の閾値としてQALYあたり20万ドルが、レカネマブの社会的価値を正確に反映していると考えている。当社は、レカネマブの社会的価値を世界中の人々や国々に伝えるため、今後も透明性高く、迅速なデータと情報の公表を続けいく」と述べている。
プレクリニカルAD対象、DIAD対象など、複数試験が進行中
なお、レカネマブについて、皮下注射によるバイオアベイラビリティ試験は終了し、Clarity AD試験OLEにおいて皮下投与の評価が進行中である。2020年7月からは、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)が、米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer’s Clinical Trials Consortium(ACTC)とのパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)で行われている。
また、2022年1月からは、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニットが実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験(Tau NexGen試験)が進行中だ。
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・エーザイ株式会社 プレスリリース