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睡眠時無呼吸症候群治療用マウスピースで嚥下障害患者の舌圧が向上-東京医歯大ほか

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2023年03月20日 AM10:35

タング・ライト・ポジショナーの装着で「」は改善されるのか?

東京医科歯科大学は3月16日、睡眠時無呼吸症候群の治療に用いられるマウスピース「」の舌圧に対する影響を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科 摂食嚥下リハビリテーション分野の戸原玄教授と柳田陵介大学院生、神奈川歯科大学附属病院障害者歯科の原豪志診療科准教授(研究当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

睡眠時無呼吸症候群の主な症状として、いびき、日中の眠気、倦怠感などがある。歯科においては上下顎の歯列に装着するマウスピースを作成し、物理的に下顎を持ち上げることで、睡眠時無呼吸症候群の症状を緩和する治療が広く行われている。

一方で、近年ではタング・ライト・ポジショナー()というマウスピースを用いられるようになった。TRPはタングラボ社が提供するマウスピースで、上顎の歯列を包み込む形状をしており、口蓋部にはレジンボタンがついている。当初は歯科矯正治療後の後戻りをなくすため舌を再教育する目的で開発されたものの、装着後に患者の呼吸が改善したことから、現在では睡眠時無呼吸症候群の治療として用いられている。

口蓋部のアーチが舌を刺激することで舌の位置が改善することについては過去の研究で明らかになっていたが、TRPの装着が舌の筋力に与える影響についてはこれまで研究されていなかった。そこで研究グループは今回、嚥下障害患者に対しTRPを装着することで、舌の力の指標である「舌圧」が改善されるかについて調査した。

2か月で「舌圧」「鼻腔吸気流量」「オトガイ舌骨筋の断面積」増加、舌圧は有意差あり

対象となったのは、2020年9月~2021年9月の間に東京医科歯科大学病院の摂食嚥下リハビリテーション科を受診した人のうち、嚥下障害があり研究参加に同意した男性8人。対象者全員のTRPを作成し、2か月間毎日8時間以上装着してもらった。また、TRPの使用前後で、舌圧、オーラルディアドコキネシス、鼻腔吸気流量および超音波による嚥下関連筋の検査を行ったほか、全員の身長、体重、日常生活動作、既往歴を聴取し、診療録から嚥下障害の重症度を参照した。

舌圧は舌圧計を用い、専用の風船を口の中に入れ、舌と上顎で思い切り押し潰した際の圧力を計測。計測値は舌筋の強さの指標として用いた。オーラルディアドコキネシスは、5秒間にできるだけ多く「パ」「タ」「カ」を発音してもらい、それぞれ口唇、舌前方、舌後方の巧緻性を計測した。鼻腔吸気量は、息を最大まで吐き出した後、勢いよく空気を鼻から吸い込む速度を計測した。超音波検査では、舌の厚みとオトガイ舌骨筋の断面積を計測した。

2か月間の介入前後の検査項目を比較したところ、舌圧、鼻腔吸気流量、オトガイ舌骨筋の断面積の3項目については増加を認め、そのうち舌圧については統計学的に有意な差を認めた。これらの結果から、TRPの装着により舌圧が向上することが示唆された。

1日8時間以上・2か月継続装着で舌の筋力が向上する可能性

これまで舌圧の向上にさまざまな訓練が提唱されてきたものの、いずれも能動的なトレーニングを必要としており、自発的に舌を動かせない人にとっては訓練が困難だった。今回の研究により、夜間の就寝中など1日8時間以上TRPを装着することにより、2か月で舌の筋力が向上する可能性が示された。TRPは取り外し可能な装置で侵襲度も低いため、気軽に使用することができる。

今後の研究では、より長い期間の装着によりTRPがどのような影響を及ぼすかについてさらなる検討を進めると、研究グループは述べている。

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