多発性硬化症など中枢神経脱髄疾患患者の一部でMOG抗体陽性者、実態は不明
東北医科薬科大学は3月14日、ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)抗体関連疾患の全国疫学調査を行い、患者数、粗有病率、粗罹患率を推計し、発症病型、血液検査やMRI検査などの検査所見、治療内容とその有効性、予後を集計・解析し、その結果を発表した。この研究は、同大医学部老年神経内科学の中島一郎教授、中村正史講師らの研究グループと、千葉大学、慶應義塾大学、静岡社会健康医学大学院大学との共同研究で行われたもの。研究成果は「Multiple Sclerosis Journal」(オンライン版)に掲載されている。
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MOG抗体関連疾患は、従来は多発性硬化症(MS)や急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、あるいは視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)と診断されていた中枢神経脱髄疾患の患者の一部で、血清あるいは髄液中にMOG抗体が見出されたことを契機に近年急速に研究が進展。典型的なMSや抗アクアポリン4抗体陽性NMOSDでは、通常はMOG抗体が陰性であり、MOG抗体に関連する炎症性脱髄疾患は独立した新たな疾患概念(性質)であることがわかってきている。しかし、これまで日本では全国的な疫学調査は行われておらず、患者数や検査所見、治療やその有効性などの詳細は不明だった。
そこで、MOG 抗体関連疾患の疾患概念を確立し、指定難病に登録することを念頭に、これまで未着手となっていた診断基準の策定、全国調査の実施を行い、実患者数を把握し、臨床的特徴、検査所見、治療反応性などを明らかにすることを目的に研究が行われた。
推計患者数は1,695人、推計粗有病率は人口10万人あたり1.34人
一次調査として、全国の神経内科専門医、小児神経専門医、神経眼科学会員が勤務する延べ3,790施設に、令和2年4月1日から令和3年3月31日の間に診療したMOG抗体関連疾患症例数に関するアンケートを実施した。1,381施設(回収率:36.4%)から回答があり、推計患者数は1,695人(1,483-1,907人:95%信頼区間:以下同)で、男性764人(663-866 人)、女性931人(803-1,058人)だった。推計粗有病率は、人口10万人あたり1.34人(1.18-1.51人)で、男性1.24人(1.08-1.41人)、女性1.44人(1.24-1.63 人)、推計粗罹患率は人口10万人あたり0.39人(0.32-0.44人)だった。欧米からはMOG抗体関連疾患の有病率と罹患率はそれぞれ人口10万人あたり1.26-3.42 人および0.11-0.48人と報告されており、今回の結果と近似していた。
発症年齢の中央値は28歳、発症時は「視神経炎」が全年齢層で約40%
研究グループは、二次調査として、一次調査で「症例あり」と回答した施設に対して、各症例の発症時の年齢や症状および臨床病型、再発回数、髄液やMRIなどの検査所見、急性期治療および再発予防治療などを調査した。解析の際には、発症年齢に基づいた群間比較も行った。
その結果、性別はやや女性に多く(53.4%)、発症年齢の中央値は28歳だった。発症時臨床病型では、視神経炎が全年齢層で約40%を占め、小児期発症例では ADEM、成人期発症例では脳炎、脳幹脳炎、脊髄炎が多くみられた。発症時に、小児期発症例では意識障害や全身痙攣、成人期発症例では感覚障害がより多くみられたこと、MRI では小児期発症例では大脳や小脳に、成人期発症例では脊髄に病変が多くみられたことも、この臨床病型と合致していた。
ステロイドや免疫グロブリン、血液浄化療法による治療の有効性は高い
再発は53.5%の症例で報告され、再発回数の中央値は1回だったが、20回以上再発している症例もみられた。初発から初回再発までの間隔の中央値は7か月だった。発症から調査時点までの全経過でみられた症状とMRI所見でも、初発時と同様に小児期発症例ではADEM、成人期発症例では脊髄炎が多いことが示唆された。
急性期にはステロイド大量静脈注射療法が大部分の症例で施行されていたほか、血漿浄化療法や免疫グロブリン大量静脈注射療法も行われ、これらはいずれも高い有効性を示した。再発予防治療では、大半の症例で経口ステロイド薬が用いられていたが、小児発症例では成人発症例よりも間欠的免疫グロブリン大量静脈注射療法が多く用いられる傾向があった。
指定難病登録や検査の保険収載などを目指す
「これらの結果は、欧米からの報告と一致し、MOG抗体関連疾患は全世界において人種や地域による差異のない一様な疾患であることが示唆された。今後、MOG抗体関連疾患の指定難病への登録、MOG抗体検査の保険収載、有効かつ安全な治療法の開発へとつなげていきたい」と、研究グループは述べている。
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