課題となる治療抵抗性、そのメカニズム理解は不十分であり予測も困難
東京大学は3月14日、高疾患活動性の関節リウマチ患者においてさまざまな免疫細胞の網羅的な遺伝子発現解析を行い、治療前の樹状細胞前駆細胞(pre-DC)の増加によって治療6か月後の治療抵抗性を予測できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院アレルギー・リウマチ内科の山田紗依子特任臨床医、大学院医学系研究科免疫疾患機能ゲノム学講座の永渕泰雄特任助教、岡村僚久特任准教授、医学部附属病院アレルギー・リウマチ内科の藤尾圭志教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of the Rheumatic Diseases」に掲載されている。
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関節リウマチは関節を包む滑膜の炎症と関節破壊を特徴とする病気で、100〜200人に1人が罹患する。生まれ持った体質である遺伝的要因に加え、喫煙、口腔内や気管支・腸内などの細菌環境といった環境要因の両者を背景に免疫に異常をきたし、関節の腫脹や疼痛が出現すると考えられている。
関節リウマチの病態には、多様な免疫細胞の関与が知られている。樹状細胞をはじめとする抗原提示細胞が、異物の破片を自身の細胞表面上に示し、T細胞の分化・活性化、B細胞による自己抗体の産生を引き起こす。ここに炎症性タンパク質による刺激も加わり、破骨細胞の生成が促進され、骨破壊へつながる。これまでT細胞やB細胞、炎症性タンパク質やその下流タンパク質、破骨細胞を標的とした治療薬が開発されてきたが、より上流に位置する樹状細胞を標的とした治療は存在しない。
現在の関節リウマチ治療で大きな課題となってきているのが、治療反応性が悪い症例の存在である。生物学的製剤やJAK阻害薬と呼ばれる強力な治療薬を使用しても、ACR基準という臨床所見の基準の50%以上の改善(ACR50)は半数程度の症例でしか得られていない。一部の関節リウマチ患者が治療抵抗性であるメカニズムは十分には理解されていない。また、治療反応性を治療前にほとんど予測することができないことも問題となっている。
形質細胞様樹状細胞に関わる遺伝子のまとまりが6か月後の治療抵抗性と最も関連
関節の具合が悪い(疾患活動性の高い)関節リウマチ患者55名を対象に、新しい治療を開始する前の血液を採取した。血液から免疫細胞を分取し、それぞれについてRNAシーケンスを用いて遺伝子発現を網羅的に評価し、Weighted Gene Correlation Network Analysis(WGCNA)という解析を行った。WGCNAは遺伝子同士の発現パターンの類似性に基づいて、類似性の高い遺伝子の集まりを数十個程度の「モジュール」に分類することができる。今回、免疫細胞それぞれにおいてWGCNAを実施し、6か月後の治療抵抗性と最も関連するモジュールを調べたところ、形質細胞様樹状細胞(pDC)の1つのモジュールが同定された。
治療抵抗例はpre-DC増加、治療反応例はインターフェロン経路が亢進
近年、pDCとして分類されてきた細胞の一部に、希な細胞集団であるpre-DCが含まれていることが報告されている。今回の治療抵抗性モジュールの遺伝子は、このpre-DCに特徴的な遺伝子と非常によく一致していた。すなわち、このモジュールはpre-DC細胞の割合を反映しており、pre-DCの増加が治療抵抗性と関連していると考えられた。次に、この治療抵抗性モジュールの免疫細胞への影響を検討した。各免疫細胞でこのモジュールの発現と関連する遺伝子を探索したところ、このモジュールはインターフェロン経路の遺伝子と逆相関していた。つまり、治療抵抗例ではpre-DCの増加、治療反応例ではインターフェロン経路の亢進がみられ、関節リウマチ患者を2つのグループに分けられる可能性が示唆された。
患者の関節局所、樹状細胞の約3分の1が炎症性
最後に、腫脹、疼痛を起こしている関節局所でのpre-DCの役割を検討するため、関節リウマチ患者滑膜のシングルセルRNAシーケンスデータを用いて、遺伝子発現をもとに樹状細胞を再分類した。その結果、患者の関節局所では炎症性のpre-DC類似細胞が樹状細胞の約3分の1を占め、炎症性の樹状細胞として報告されている遺伝子を高発現していた。
pre-DC測定により、治療反応性予測の個別化医療につながる可能性
今後の臨床的展望として、pre-DC自体をバイオマーカーとした関節リウマチ患者の新たな層別化がある。治療前のインターフェロン経路の亢進に特徴づけられる比較的予後良好の症例と、pre-DC増加に特徴づけられる比較的予後不良の症例は、免疫学的な病態が異なる関節リウマチにおける別個のグループである可能性がある。よって治療開始前にpre-DCを測定することで、治療反応性を予測する関節リウマチ患者の個別化医療が実現する可能性がある。さらに、治療抵抗性の関節リウマチの病態に樹状細胞が関わる可能性もある。「pre-DC自体もしくはより分化した成熟樹状細胞が、関節局所において炎症を促進すると考えられ、それらを標的とした難治性関節リウマチの新規治療に結びつくことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース